長かったような、短かったような、相変わらずきっつい合宿を終え、オレ達は伸びをしながら帰りのバスに乗り込んでいる。
テツに至ってはもう体中が悲鳴をあげているのか、死んだ魚みてぇな表情だ。
笑ったらじとりと睨まれた。
いや、でも、今回は楸がいたからやっぱ終わるの早かったな。・・・早く、感じたんだ。
練習中のオレは集中するも、何故か視線はあいつを常に捉えていて。
見てくれてっかなとか、少しでも・・・少しでもカッコ良くあいつの目に映ってれば、とか。
「あ、帰りは青峰氏が隣だ」
「おう、飴よこせ」
口の中で楸から受け取った飴玉を転がしながら、この三日間を思い出す。
一日目。
虹村先輩とこいつの関係が気になって自分でもわかるくらいに不機嫌になった行きのバス。
ただの幼馴染みだとわかった瞬間のあの安心。
そして高まるテンション。
二日目。
意外にも美味かった手料理。
マネージャー仕事に慣れてきた様子の楸を見ながら、自身のやる気も出た練習。
そして、たまたま見かけた赤司と楸が談笑している姿。
言いしれない何かが胸中を渦巻いた。
三日目、今日。
髪型の違うこいつを見て、何故か暴れる心臓とほてる頬。
まだ練習なんて始まってないのに。
そして、今、隣の席に髪を縛ったこいつが疲れたふうな表情で窓の外を見ている。
普段は髪の毛に隠れて見えないうなじが顕になって、やっぱり、変に心臓がうるさくなる。
これは、なんだ。
こんな、オレがおかしくなっちまいそうな、これは、なんだ。
「青峰氏?」
「、あ?」
怪訝そうな顔をした楸が、オレの顔を覗き込む。
近ぇんだよバカ。
ほら、また心臓が暴れるじゃねぇか。
「そんな顔ジロジロ見られると居心地悪いんだけども」
「・・・窓の外見てただけだよ、ばーか」
「へー、じゃ、さっき通り過ぎた店の名前言ってみ?」
「知らねえ」
「即答だね。あのラーメン屋さん美味しそうだったなあ」
言いながらあくびをする楸。
そいや、行きのバスは緑間にもたれかかって寝てやがったな、こいつ。
ああ、なんだか、イライラしてきた。
オレの大きな手で、楸のボールより小さい頭を掴んで引き寄せる。
いたっ!?
オレの肩に頭をぶつけたこいつは小さく悲鳴をあげて軽く睨んできた。
「なにすんの、もう」
「眠てーなら寝ろ」
「青峰氏肩貸してくれるの?」
「んなもんいくらでも、」
いつでも、貸してやるよ。
言葉にするのが少しだけ気恥ずかしかった。
楸は小さく笑って、もう一度今度は大きなあくびをして、オレの肩に頭を預けて目を閉じた。
しばらくして寝息が聞こえてきた。
臨時マネージャーとして働いてくれた三日間で、楸の小さな手は目に見えて荒れていた。
「かわいいな、ちくしょう・・・」
小さな小さなオレの呟きは、バスのエンジン音に掻き消えた。