額にひんやりとしたタオルがあてがわれる。
僕は小さくすみません、と言って気持ち悪さに顔をしかめた。
彼女、久遠さんはきっと笑っているのだろう。
今は瞼が重くて開けられないけど、そう感じた。
僕が寝そべっているステージの向こう側では、まだバッシュやボールをつく音が聞こえる。
ああ、こんな格好悪いところ、彼女に見られたくはなかった。
「大丈夫?子テツ」
「・・・・・・は、い」
「とても大丈夫そうじゃないねぇー」
ふふ、と、久遠さんの笑い声が聞こえる。
僕は恥ずかしさからくる居心地の悪さに、顔を見られないように体を反転した。
もともとバスケ選手にしては体力がない僕がこうなってしまうことは、合宿前から分かりきっていたことだ。
それでも彼女が臨時マネージャーとして参加すると聞いて、いつも以上に頑張ってしまった。
彼女が僕を見てくれているとは限らないのに。
僕なんかよりも何倍も上手くて、・・・かっこいい、彼らに目を奪われていたかもしれないのに。
「ちょっとは吐き気とか治まった?」
「え、あ・・・はい」
まさかまだ久遠さんが傍にいてくれていたなんて思わず、若干驚いた僕は目を開けて彼女がいる場所を確認する。
合宿用に買ったのだ、と笑いながら見せてくれた青色のジャージ。
顔は見ることが出来ないけれど、何故か妙な安心感があった。
オレみてーな色だな!
嬉しそうにそのジャージを触っていた青峰君を思い出す。
そして、はいはいそうだねと適当にあしらっていた久遠さんも。
「なんか飲む?」
「いえ・・・今は少し、起き上がれそうにない、です」
「ほんとに大丈夫なの子テツ」
細くて白い手が目前に迫り、僕は驚いて久遠さんを見上げた。
ぴと、と温かくも冷たくもないぬるい温度の彼女の手が、僕の頬に乗る。
汗を、かいているのに。
心臓が騒いで、とても煩い。
もう、バッシュもボールのつく音も聞こえなかった。
「・・・んー、大丈夫なのかそうじゃないのかわかんないや」
「・・・っ、」
ここにいるから、体調悪化したらすぐに言ってよ?
いつもの微笑みを浮かべる久遠さんに、僕は口を引き結んで目を閉じた。
そうしないと、つい零れてしまいそうな想いがあった。
誰でも平等にその優しさで包んでくれる彼女が、
久遠さんが、好きだと。