普段から家の手伝いはあまりしないと言っていた楸さんだが、レシピがあったお陰か、桃井のように味に支障はなかった。
むしろ、美味しいといっても良い。
得意げに幼馴染みである虹村さんに作った料理を見せる彼女が幼くて、少し笑ってしまった。
「やー、でも料理作れって言われたときはさすがに焦った。赤司君の頼みだけど、お断りしようかと思ったよ」
「いきなりすまなかったね」
宿泊する宿で、自動販売機で飲み物を選んでいた彼女にバッタリ出くわしたオレ。
少し話さないかと笑いかければ、彼女はすぐに頷いてくれた。
近くの椅子に座る。風呂上りか、少し湿っている彼女の髪の毛。
練習のときに着ていたジャージとはまた違い、パジャマに近いその服装はなんだか新鮮だ。
楸さんといると、新鮮味のあることばかりだ。
「それでも君にお願いするしかなかったんだ。桃井の料理は・・・なんというか、個性的でね」
「すんごくオブラートに物事を包んだね」
苦笑。
困ったように笑う楸さんに、オレも笑っておく。
購入した紅茶を飲んで、彼女は息を吐いた。
長袖でも過ごしやすい時期になってきた。夏も好きではないが、冬はもっと好きではないな、と一人考える。
沈黙が流れるも、別段気まずいなんてことはなかった。
「あ、赤司君もいる?おいしいよ」
「・・・一口、もらおうか」
「ほいよ」
間接キス、なんて彼女は微塵も考えていないのか、それならばオレが気にしても仕方がない。
躊躇せずに自分のそれを飲み口につけてごくりと飲み込む。
たった一口で、随分温まったような気がした。
「ありがとう」
「いいえ。あ、紅茶は大丈夫だった?」
「嫌いだったら飲まないさ」
「ふ、だよね」
そろそろ体も冷えてくるころだろう。
最近は、夜と朝が特に寒い。
立ち上がったオレに、もうお開きですか赤司主将、とイタズラっぽく笑う楸さん。
特別美人というわけではない彼女の笑みは、それでも他の女子よりも可愛らしく見えるのだから不思議だ。
そうだね、続きは明日にでも。
冗談で返せば、楸さんは笑みを深くして一気に紅茶を飲み干した。
「冷えてきたから、部屋に戻るといい。明日もよろしく頼むよ」
「うん。おやすみ赤司君」
「ああ、おやすみ」
「お前ら、随分久遠に入り浸ってんなァ」
「、虹村さん。どうしたんですか?」
「いや、たまたま通りかかっただけだ」
イタズラっぽく笑う虹村さんと、先ほどの彼女の笑顔が重なる。
なるほど、あの笑い方はこの人に似たのか。
「赤司、お前も久遠のこと好いてんのか?」
「・・・"も"、とは」
「見る限り他にもあいつのこと気にかけてる奴がいんだよ。ったく、そんなにモテてた訳じゃねェのに。モテ期か久遠の奴」
「さあ、どうでしょうね」
興味がないというわけではありませんが。
表情を変えずに告げれば、虹村さんはふーんと興味なさげに頭をかいた。
「・・・ま、明日もビシバシ指導頼むぜ、キャプテン」
「・・・はい」
じゃあな。
ヒラヒラと手を振って、虹村さんは自室の帰っていった。
自身の唇に触れ、オレは小さくため息をついた。