いよいよ合宿が始まる。
・・・"いよいよ"、なんて普段は思ったこともないが、なぜオレが"いよいよ"というキャッチフレーズを使ったのか。
それは、いつもの合宿にはない存在がメンバーに加わっているからである。


「てめぇ遅刻たァ良い度胸じゃねぇか。あ?」
「ごめんなさいごめんさないでも造ちゃん起こしてくれたっていたたたたすみません!」


虹村先輩にしごかれる楸を唖然として見つめるのは、何もオレだけじゃないはずだ。
隣で小さく笑った赤司にはきっと、先輩と楸の関係なんて筒抜けに違いない。
だがオレは知らない。普段から他人に対して警戒などしない楸だが、見るからに心を許しあった二人の関係なんて、知らない。


「ちょっとミドチン、なにボーっとしてんの?早く乗ってよ」
「・・・! あ、ああ」


オレと同じく呆然とした様子の青峰黒子黄瀬に、何故か安心感を覚えながらオレはバスに乗り込んだ。


***


もやもやとした気持ちのまま、座席に座ったオレの隣はなんと、もやもやの原因とも言える楸だった。
何故か動揺してしまう。何故だ。こんなのオレではないじゃないか。

虹村先輩と、どういった関係なんだ?

言葉にしようと動かした口は、しかし別の言葉を紡ぎだす。


「酔、わないのか?お前は」
「え?・・・なに、珍太郎が私の心配なんて・・・今日は占い何位だったの・・・?」
「なっ、心配などしていない!ただの疑問だ!」
「照れちゃってー。ラッキーアイテムは?なんなの?」
「今日は消しゴムなのだよ、って、違う!」


分かってるって、ありがと。

そう言って小さく笑った楸にオレは口ごもり、手のひらに転がる消しゴムを強く握った。
外は少し雨が降っていて、車内との気温の差で景色はぼやけてしか見えない。
静かとは言えない空間の中で、オレは隣に座る彼女を盗み見た。

・・・バスが発進してから数分だというのに、既に楸は船を漕ぎ始めていた。
遅刻するわ、すぐ寝るわ、昨日どれだけ眠れてないのだよ、こいつは・・・

景色を見ようと窓の方を向く。
曇って見えないことの気づき、呆れの混じった自分の顔がガラスに映った。

・・・こいつもこいつなりに、緊張などしていたのだろうか。
もう一度眠る楸を見て、今日からの合宿に向けて準備をする彼女を連想し、何故かとても胸が・・・苦しい?

これは、なんだ?

肩にこつんとあたる何か。
オレから見えるのは楸のつむじ。

息を呑む。
心臓が騒ぐ。
腹の奥が痛い。


「・・・っ、」


ああ、これは。

"愛おしい"、だ。

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