合宿前日。

廊下でたまたま会った赤司君と少しだけ合宿の話をして、部活がある彼は明日からよろしく、と美しい笑みを見せて体育館に向かった。
イケメンはなにしても許せるね、りょた君もイケメンだからあんなにじゃれてきても許せちゃうんだ。罪だね。
意味はないけど造ちゃんにがんばれ、とメールを送って、鞄を取りに教室に帰る。

だけどそこには、先客がいた。


「なに勝手に人の席に座ってんの、ザッキー」
「ザッキーてなんだよ」
「灰崎祥吾だから、ザッキー」
「意味わかるけどやめろよその呼び名」
「やだ」
「犯すぞ」
「いやーん」
「気持ちわりぃ」


恒例の挨拶(?)を終え、なにしてんのもー、と愚痴りながら鞄の中を整理する。
部活を退部して暇なんだろう、ザッキーは足を組んで手も頭の後ろで組んで、だるそうに椅子にもたれかかっている。
私のクラスに来たってすることなんてないでしょー、そう言いながら窓を閉めれば、気のない返事が返ってきた。


「ただの暇つぶしだよ」
「暇つぶしにもなんないでしょー。ていうか私帰るよ?」
「じゃオレも帰ろ」
「なにがしたいのザッキーは」
「なんならラブホでも行くか?」
「明日合宿だしやめとくー」
「・・・本気にすんなよ気色ワリー」
「してねーわよ」


ていうかザッキーには女の子いっぱいいるでしょ。

黒板を消して、机の整頓をして、私の鞄についているキーホルダーをいじって遊ぶザッキーの手を払って、鞄を持って出口に向かう。
だるそうに立ち上がったザッキーは、でもきちんと椅子をしまって私の横に並んだ。

電気を消す。
真夏のときほど明るくない外、当然教室内も薄暗い。
間違ってもザッキーといい感じな雰囲気にはならないけど、私もそろそろ青春したいなぁなんて思った。


「お前今日日直なのかよ?」
「いや、いっつもしてることだよ」
「はぁ?だる」
「帰宅部だし、暇だしね」
「他にも帰宅部のやついるだろ」
「うーん、まあ」
「・・・お人よしかよ」
「部活頑張ってる人たちの声とか聞くの、結構好きだよ」


ザッキーのピアスが耳元で揺れている。
綺麗な銀色のそれに、私はつけるなら青がいいなぁと思った。
青といえば青峰氏だよね。青峰氏もピアスとか似合いそうだよね。

ああ、明日から合宿だ。


「てゆーか合宿ってなんだよ?」
「バスケ部の。臨時マネージャー頼まれたの」
「はあ!?マジかよ・・・オレマネージャーの仕事見てたけど、結構きっちぃぞ?」
「心配してくれてるの?ありがと」
「するわけねーだろ!!」


少し照れたようにそっぽを向くザッキーをいじってやろう。
口を開こうとしたとき、女子特有の可愛らしい声がした。

あ、ショーゴ。

振り返ると、お化粧バッチリな女の子が訝しげに私達を見ていた。
途端、ザッキーは小さく舌打ちをして私を背に隠すよう立つ。

なんだなんだ、何が始まるんだ?


「今日はウチと一緒に帰るって言ってなかったぁ?」
「わり、急用できたんだわ」
「・・・えー。・・・後ろの子、ダレ?」


あ、なんかやばい感じですか。修羅場ですか。
今度はあからさまに舌打ちして私の耳に口を寄せるザッキー。

ぼそ、と何かを呟かれた次の瞬間、私の手を掴んだザッキーは駆け出した。


「なっ、ちょ、ショーゴぉ!?」


突然の出来事のザッキーの名前を叫ぶだけの女子生徒を振り返らずに(ていうかそんな余裕なかった)、引かれるままに走る。
ちょ、あの、速すぎです私帰宅部です!!

玄関にたどり着いた頃には私はもう息も絶え絶えで、でもザッキーは余裕そうで。
ムカついた私は彼の肩を力任せにぶっ叩いた。


「ってぇな、なにすんだよ」
「こっちのセリフ!」
「ちょっとめんどくせぇ女なんだよありゃあ」
「もー、後々やっかいなことに巻き込まれたらザッキーのせいだからね」
「お前なんかスペック低すぎてあいつらの眼中にねぇだろ」
「もうザッキー嫌い」


なんてことのない日常が、段々壊れていくような気がしてならない。
まぁそんなことは置いておいて、明日から三日間頑張ろう。


「・・・ま、精々頑張るこったな」


見上げたザッキーの耳は、心なしか赤かった。

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