「最近アイツらのお気に入りの奴がいるって、お前のことだろ?」


人のことを品定めしてくるかのような目つきで、目の前にいる灰色の髪の毛をした帝光生は言った。
ちなみに名前は知らない。ていうか話したこともないしぶっちゃけ誰この人状態である。どうしてこうなった。
放課後、人も少なくなった教室になんとなく居座ってたら、いつの間にかクラスに入ってきていたこの人がなんだかおもちゃを見つけた子どものような顔をしていた。
スマホをいじっていたため、足音がしたときは先生かと思って驚いた。
取られなくてよかった。で、誰。


「えーと、ごめん。誰かわかんないんだけど・・・」
「ふはっ、マジかよ?オレこう見えてケッコー有名だと思ってたんだけどよぉ」
「・・・はあ」


自信過剰なのか、本当に有名で私が鈍感なだけなのかはわからないけど、見た目からして優等生ではないだろうな。
ピアス開けてるし。

若干たじたじになりながらも、私は口元に笑みを絶やさないこの人を見上げた。
獲物を狙う獣のような目が、少し怖い。


「灰崎祥吾。これ言ってもわかんねーか?」
「あ、聞いたことある!」
「っは」


なにが可笑しいのか、灰崎君はまた面白そうに笑った。
そして何故か、正面の席に座った彼は、そのままだるそうに背もたれにもたれかかった。

少しの沈黙が流れる。


「お前、なんでアイツらに気に入られてんの?ぶっちゃけ訳わかんねぇんだけど」
「いやアイツらって誰」
「あ?そりゃおめー・・・、」


言いかけて灰崎君は嫌なことを思い出したのか、忌々しげに舌打ちした。
何もしてないのにキレられた私も若干眉根に皺が寄る。
長くなりそうだ、と頬杖をつけば、彼もまた頭の後ろで腕を組んだ。


「てゆーかオレが怖くねーのか?」
「ちょっと灰崎君話飛びすぎじゃないかなさっきから」
「・・・や、なんてゆーか、拍子抜けだわ」
「なんか期待裏切ったみたいでごめん非常に腹立たしいけど」


アイツらのお気に入りだっつー話聞いたからどんな美少女でグラマーな奴かと思えばよぉ。

・・・勝手に落ち込まれても困る。
あくびをした灰崎君。つられてあくびをしながら、私はスマホをいじる手を再開した。


「とりあえずメアド交換しよーぜ」
「えーめんどい」
「殺すぞこら」
「せめて犯すぞこら、くらいにして。仮にも女の子なんだからさ」
「・・・犯すぞこら」
「いやん」
「キモい」
「え」
「なんつーかマジで拍子抜け。あー萎えた」
「最初から最後までとことん失礼だよね・・・!?」


奪う気もしねぇ。

何のことを言ってるか理解できなかったけど、奪われないのなら良かった。
赤外線の準備をしながら、私はふと青峰氏との会話を思い出した。


"最近灰崎って奴が退部してよぉ"
"へー、そうなんだ"
"ま、あいつもかなり素行が悪かったからな"
"反抗期なんじゃない?"


「あ、灰崎祥吾君だわ。思い出した」
「あ?」


灰色の髪の毛が揺れた。
青峰氏から聞いてたより、私にはすごく単純な奴に見えた。


「素行が悪くて部活を退部したって」
「おー」
「ご愁傷様、です」
「・・・別に、元からどうでもよかったし」
「反抗期だったのね」
「なわけねーだろ!まじで犯すぞクソ女」
「いやーん」
「気持ちわりぃ」


デジャヴな会話を繰り広げながら、耳元で揺れるピアスを見ていた。

あーマジ萎えたと言いながら椅子を軽く蹴る灰崎君。
なんてあだ名にしようか、ただピアスを見ながら考えていた。

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