声をかけることはあっても、声をかけられることは滅多とない。
だから、後ろから肩を叩かれたときはそれなりに驚いた。
なるほど、皆さんはいつもこんな気持ちだったんですね。

それにしてもこの人は、影が薄いと自負している僕を見つけるのが得意だ。


「見慣れた水色の髪の毛が見えたから、声をかけずにはいられないよね」
「こんにちは、久遠さん」
「うん、こんちゃー」


休日にこうして彼女と顔を合わせることになるとは思わなかったが、今日の僕はついている。
彼女の私服姿はとても新鮮な感じがした。カジュアル、というのだろうか。

似合ってますね。

思ったことをそのまま口にすれば、久遠さんは一瞬目を丸くしたあと柔らかく微笑んだ。


「ありがと子テツ!」
「どういたしまして?」
「なんで疑問系」
「いえ、なんとなくです」


なにそれ、と再度笑う彼女に思わず目を細める。
誰にでも分け隔てなく接す久遠さん。いつでも僕を見つけてくれる久遠さん。
胸の奥が少し疼く感覚がして、僕は強く拳を握った。

見つけてくれる。
それだけでも、僕にとっては大きなことなのだ。


「どこか、いかれるんですか?」
「いや、天気良かったし散歩でもしようかなって。子テツは?」
「本屋に行こうと思ってました」
「本好きなんだ。暇だしついて行こーかなー、いい?」
「もちろんです」


じゃあ行こうっと!
子どもっぽく歯を見せて笑いながら、久遠さんは僕の隣に並んで歩いた。
背があまり高くない彼女は、背があまり高くない僕でも裕に慎重差があった。そのことが、何故か嬉しかった。

隣を歩く彼女はいつもどおり、他愛のない話を途切れさすことなく、たまに相槌をうつ僕を見上げながら、言葉を紡ぐ。
話し上手ではない僕にとって、彼女の傍は居心地が良かった。


「あの、久遠さん」
「んー?なんでしょう?」
「良かったら、本屋に寄ったあとにマジバに行きませんか?」
「あ、行く行く!どうせ暇だし」
「バニラシェイクがオススメですよ。今日は僕のおごりで」
「やった、子テツナイス!」


今日は子テツに会えてよかったー!

何の気なしに呟いた言葉だろうけど、僕の心臓を高鳴らせるには十分だった。

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