放課後。
お喋りしていたちなと青峰氏と珍太郎は部活のため、教室を出て行ってしまった。
ばいばい久遠ちゃんとクラスメイトに手を振られ、若干笑顔を作って手を振り返す。
途中、りょた君が廊下を通ったけど女の子に囲まれてたから見るだけに留めて鞄の中をまさぐる。ふと顔を上げるとりょた君と目が合って、少し困ったような笑顔を浮かべたから口パクで頑張ってとエールを送る。通じたのか、小さく頷いてくれた。イケメンだなぁ。
改めて、モデルは大変だと思いました。まる。
段々と少なくなっていく教室内で、帰る気にもなれなくて、なんとなしに窓の外を眺める。
少し見覚えのある桃色の頭が、バスケ部が使う体育館と逆方向に歩いているのが見えた。
「・・・桃井さん?」
まさか、また・・・呼び出しとかされてるのかな。
部員にバレないように配慮してるところはさすがだけど、そんなホイホイついていくなんて、桃井さんも少しは反抗したらいいのになぁ。・・・そんな面倒事。
こないだのトイレではなんとかなったけど、さすがに今回青峰氏を連れ出すのは気が引ける。しかも部活動中だろうしなぁ・・・
・・・仕方ないかなぁ。
私は窓に手をついて、大きく息を吸った。
「桃井さーーーーん!やっほおおおお!」
「・・・!」
私の声に気づいた桃井さんは、バッと顔を上げてこっちを見た。
視界の隅で、集団で固まってる女の子達が目に入る。りょた君のファンにいそうな、いかにもな女の子達だ。
「え、楸さん・・・!?」
「そっちバスケ部の活動してる体育館じゃないでしょーーーー?どこ行ってるのーーー?」
「え、や、ちょっと・・・ね、」
目を泳がせる桃井さんに、呼び出しをくらったことが確実だということが理解できる。
はあ、ほんと、懲りないな。妬む女の子達も、・・・それに応える桃井さんも。
また大きく息を吸って、体育館にまで届くような声で呼びかける。
「もしかして告白の呼び出しーーーー!!?」
「ちがっ!違うよ!!」
あたふたと赤面しだす桃井さん。うん、美少女だなぁ。
女の子の集団がゆっくりと歩き出す。終わらない私と桃井さんの会話に、今日のところは引いてくれたのだろう。
一回ため息をついてまた桃井さんの方を見れば、いつの間に来ていたのか赤司君が居た。
桃井さんになにかを伝えているのか、ここからじゃ何も聞こえないけど。
まぁ、もう大丈夫だろう。
窓を閉めて、ついでに鍵も閉める。
教室内に私一人。そろそろ帰ろうかな。
電気を消して鞄を肩にかけた時、中でスマホが振動した。
登録されてない人からの電話。・・・無視、ってわけにもいかないよねぇ。
「はい・・・?」
《・・・楸さんかい?》
「・・・え?赤司君・・・!?」
《そうだよ》
まさかの赤司君だった。
若干早鐘を打つ心臓。体育館の外からかけてるのか、小さくではあるけどバッシュがこすれたりボールが地面についてバウンドする音が聞こえた。
ていうかなんで私の番号知ってるんだ、怖いよ。
「なに、どうしたの」
《・・・いや、先ほどのことだが》
「先ほど?」
《桃井をさりげなく庇っただろう》
もう一度窓まで走って外を見る。赤い頭を見つけることはできなかった。
《礼を言うよ。ありがとう》
「赤司君、知ってたの?桃井さんの呼び出しの件」
《まあね。だがこれに関しては、俺が直に干渉することはできない》
「うーん、そうだね。ますます事が大きくなるからね」
《桃井も桃井で、こちらにバレないようにしてるつもりだろうからな》
俺にはお見通しだが。何もできないのは口惜しいが、これは本人の問題だと思ってるよ。
そう、赤司君は言った。
私も見えないだろうけど、小さく頷く。
クーラーが切れた教室で、つ、と汗が頬を伝った。
「・・・赤司君、練習は?いいの?」
《ああ、そろそろ戻らないとな。とにかく、ありがとう》
「うん。あ、できれば桃井さんに伝えて欲しいことがあるんだけど・・・」
《・・・なんだい?》
「・・・向き合うのは良いことだよ、でも向き合うだけじゃなにも変わらないよ。って、言っておいて」
《・・・君は本当に、》
「? 本当に?」
《いや、なんでもない。伝えておこう》
「ありがとう、部活がんばってね」
《ああ》
赤司君が返事するのを最後に、電話は切れた。
同時にメールを受信している。開けば、赤司君が自身の番号とアドレスを送ってきていた。
"登録しておいてほしい"
・・・家に帰ってから、ゆっくり登録しよう。
スマホを鞄にしまって、私は今度こそ教室を出た。