呼び出しをくらった。
別に珍しいことじゃなくて、むしろ良くあることだ。
私はまた嫉妬深い女子達の指示通りに、マンモス校でも人通りの少ないトイレに向かう。

ううん、気が乗らないなぁ・・・
またあの甲高い声の罵声を浴びなきゃなんないのかなぁ・・・

トイレに行く途中に、一際大きな笑い声が聞こえた。
聞き覚えのありすぎる、幼馴染みの笑い声。大ちゃんだ。
傍には少し背が低めの女の子。なんていうか、すごく普通。
皆から一目置かれる大ちゃんとその女の子の組み合わせはすごく不思議で、同時に新鮮で・・・少し、羨ましかった。

一瞬女の子と目が合った気がしたけど、これ以上待たせたら呼び出した人たちの怒りボルテージをさらに上げてしまうかな。

私は早歩きで指定の場所に向かった。


***


「言いたいこと・・・わかってるわよねぇ?」


リーダー格の女の子が、私を睨む。
周りで見守っている女の子達も、一様に嫉妬心こもった視線を向けてきた。


「桃井さん、アンタ邪魔なのよ。さっさとマネージャー辞めてくんない」
「・・・イヤです」


ぎり、とリーダーが歯軋りした。
歯軋りしたいの私なんだけどなぁ。ホント、ぎりぃって歯軋りしたい。

この人たちは、何度言ったら分かるんだろう。


「何度言ったら分かるのよ!?レギュラーに近づくためにマネやってんでしょ!?」


私もそんなに、沸点高くないんだけどなぁ・・・


「ただ顔が良くて乳がでかいからって、いい気になってんじゃないわよ!!」


ぷっちーん。

頭の中にあった我慢の糸が、切れた気がした。
もう駄目。もう我慢できない。言いたい放題言わせておけば・・・!

言い返そうと口を開けた時、誰かがトイレに入ってくる気配がした。


「ん?大きな声がするなって思ったら、去年クラス同じだった鈴木さんじゃん!」
「楸、さん・・・」


集団リンチの様子を見られて焦ったのか、汗を流し始める女の子達。

"楸"

最近何度も耳にする名前に、私は開いた口がふさがらなかった。
この子が、楸久遠・・・さっき、大ちゃんと話してた子だ・・・


「なにしてるの?こんな人通りの少ないトイレの中で・・・あ!」


わかった!
とかしわ手を打った楸さんは、ニンマリと笑った。
空気が冷えたような錯覚に陥る。私を囲んでいた女の子達が、唾を飲み込むのが分かった。


「ツレションでしょ!」
「・・・・・・・・・・・・はあ!!?」


どう見たって違うでしょ!?

とんだ勘違いに、私を取り囲んでいた女の子達が一斉にため息をついた。
「そう、ツレションよ!楸さんもやるぅ?」さっきと違う口調でリーダー格の女の子・・・鈴木さん?が言う。
「ううん、やめとくー」と楸さんが笑顔で手を振った。

・・・あ、待って、行かないで。
ツレションなんかじゃない、私、呼び出しくらってたの。
背を向けて歩き出した楸さんに手を伸ばす。が、それは叶わなかった。
女の子達の一人が私の腕を掴んで秘かに笑った。悔しさで、涙が出そうになる。


「あ!そうだ!」


くるりと振り返った楸さん。
「ど、どうしたの?」と慌てて取り繕う鈴木さんに微笑んで見せ、彼女はトイレの外に向かって大きな声を出した。


「青峰氏ー、桃井さん見っけたよー?」
「・・・え!?」


目を見開く私同様、周りにいた女の子も一気にざわめきだした。
なんで、大ちゃんが、?
私を探して・・・?呼び出しくらったの、見てたの?まさか、そんなわけない。隠してきた、隠してこれてたはず。だったら、なんで・・・?


「楸、・・・さん、あ、青峰君が外に、いるの?」
「ん?うん。それがどうしたの?」
「や、なんでも・・・ないわよ。行きましょ、みんな」


どやどやとトイレから散っていく女子集団。
女子トイレにも関わらずドカドカと入って来た大ちゃんは、金貸してくれと手を出してきた。

迷わず股間に蹴りを入れておいた。


「・・・っ、!おまっ・・・選手生命に関わるところを・・・っ!」
「いーよもう大ちゃんそのまま死ねば」
「ぶはっ!青峰氏どんまーい」


楸さんと目が合う。
お礼を言おうと口を開きかけたら、人差し指で制された。


「いーよ、別に」
「で、でも・・・」
「・・・、あ?なんの話してんだてめーら」
「青峰氏にはな い しょ!っね!」
「あ、う、うん!大ちゃんにはなーいしょ!」
「はぁ・・・?」


楸久遠ちゃん。
私この子と友達になりたい!

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