あたしの名前は佐藤千夏。
去年から同じクラスの久遠と、まあ、友達をやっている。
久遠と一緒にいるのは楽だ。なにしろ、この子は他人に対して特別なにかを求めることをしない。友達だからとか、親友だからとか、そんなことが一切ないのだ。
そんな久遠だからか、あまり他人と馴れ合わない(意図してるわけじゃないだろうけど)キセキの世代もこの子には異常に懐いているように見える。
あくまでもこれはあたしが感じていることである。
今日は、そんなあたしの視点から見た久遠を語ろうと思う。
「ちなー」
もう一度自己紹介をしておこう。
あたしの名前は佐藤千夏。ゆえに、久遠からは主に"ちな"と呼ばれている。
案外この呼び名を気に入っていたりするってのは、本人には秘密。
「なによ」
「移動教室だよ。行こー」
「え、なんだっけ?生物?」
「そースよ」
「黄瀬君の真似しなくてもいーから気持ち悪い」
「そこまで言う!?あんたりょた君大好きじゃん!」
「だからあんたか黄瀬君の真似なんかしたら穢れるの、あたしの中の黄瀬君が!」
つかりょた君ってなによりょた君って。
こいつ黄瀬君とも仲良くなりやがって羨ましいな・・・!
***
突然現れた黒子?君?に、気づけなかったあたしは驚かない久遠を初めて心から尊敬した。
なにこいつ目が何個もあるんじゃないの?
もしくは気配掴むのが得意なの?てか黒子君影薄すぎでしょ。
あたしには分からなかった黒子君の表情の変化を的確に指摘した久遠。
黒子君は少し嬉しそうに(これはあたしにも分かった)、去っていった。
なにが嬉しいのか、久遠も若干微笑んでいる。なんだお前ら青春しやがって。リア充死ね。
「ごめん、行こっか」
「あんた、本当バスケ部に気に入られてるよねぇ」
「んー・・・?青峰氏と仲良くしてたら必然的に喋るようになっただけだけどなぁ」
いや、普通はそこまで仲良くなれないって。
という言葉は飲み込んで、話しながら前に進む。
青峰君に、緑間君、まことに悔しいけど黄瀬君、そして黒子君に最近は赤司君と話してる姿も見かける。
・・・キセキ制覇あと一人じゃん。紫の巨人を思い浮かべながら、久遠の話に耳を傾ける。
「なんていうか、うん。そんな肩書きに縛られないで楽しんでバスケしてほしいよねー」
話してみたらみんな個性豊かで面白いよーと笑う久遠に邪まな感情は一切見てとれない。
・・・あー、この子のこういうとこ、安心するし。
キセキのみんなも安心するんだろうな、と思った。
強くなりすぎて目立って、それを望んでもいないのに遠巻きにかっこいいだらなんだら言われて、別にそれが嫌なわけじゃないんだろうけど・・・"普通"っていう感覚が新鮮だったんだろう。
あたしじゃ久遠みたいにさっぱりと付き合えない。
きっとどこかでキセキのみんなを遠巻きに眺めてしまうだろう。
「ありがぶっ!?」
「ちょ、久遠!?・・・でっか・・・」
噂をすればなんとやら。
赤司君と一緒にいたらしい紫原君が、ぶつかった久遠をじーっと見つめている。
途中で時間がやばいことに気づき、赤司君が間に入ってくれた。
おおう赤司君まじ紳士。となりの久遠も同じことを思ったのか、少しだけ目が輝いていた。
「じゃあ赤司君、またね」
手を振って駆け出す久遠の少し後ろを走る。
「最近あの子の話で盛り上がってるかと思ったら・・・普通の子じゃん」
「紫原もいずれ分かるさ。楸さんは面白いよ。・・・いや、」
面白いというより、少し新鮮さを感じる。
・・・久遠、あんた。
今後もキセキに絡まれるよ・・・
友人がキセキを制覇する日も、そう遠くはないだろう。
そして、そんなキセキに依存されそうな気もした。