「こんにちは、久遠さん」
「おおう子テツ。こんにちは」


一緒に廊下を歩いていた友人が、子テツの突然の登場に「うわっ!?」とビビッている。
そんな驚くことでもない気がするのは私だけなのか、「あんたなんで驚かないの!?目ぇどうなってんの!?」と顔の前で手を振られた。
いや、ちょい子テツに失礼でしょうそれは。すぐさま友人の手を払いのけて、子テツに向き直った。

今気づいたけど、苗字呼びだったのに名前呼びになってる。
だからなんだって話だけど、距離が縮まったみたいで嬉しかった。


「移動教室ですか?」
「そーだよ。次、生物だから」
「生物ですか、解剖とかするんですか?」
「あ、子テツ今少し眉間に皺寄ったよ。さてはグロいの苦手だな?」
「・・・よく分かりましたね」
「女の勘をなめちゃあ駄目だね」
「違います、表情が変わったことにです」


え?気づくよ?
首を傾げれば、何故か子テツは嬉しそうにそうですか、と微笑んだ。
・・・よく分からんけど、子テツが嬉しそうだから良しとしよう。

子テツとあまり面識のない友人をほうっておくのもかわいそうだから、そろそろ行くねと手を振る。
子テツは小さく返事をして、踵を返した。
水色なんて目立つ頭をしてるくせに、その姿はあっという間に見えなくなる。


「ごめん、行こっか」
「あんた、本当バスケ部に気に入られてるよねぇ」
「んー・・・?青峰氏と仲良くしてたら必然的に喋るようになっただけだけどなぁ」


青峰氏と話してたら珍太郎とも話すようになって、その珍太郎経由で子テツとりょた君と仲良くなった。
夕立の日に、私のことを青峰氏達から聞いて知っていたという赤司君とも仲良く(?)なった。


「青峰君でしょ、緑間君でしょ、黒子君でしょ、黄瀬君でしょ・・・赤司君、・・・あんたあと一人で完全制覇じゃん」
「完全制覇?なんの?」
「キセキの世代」
「・・・、」


正確に言えば黒子君はキセキじゃないけどねーと呟く友人。
"キセキの世代"っていう響き、かっこいいけどあんまり好きじゃないなぁと感じながら黙って足を運ぶ。
なんていうか、うん。そんな肩書きに縛られないで楽しんでバスケしてほしいよねーと言えば、友人はしばらく私の顔を見てからそうねと頷いた。


「あんたのそーゆうところが気に入られたのかもね」
「え?」
「んー、なんていうか、人を選ばないとこ」
「・・・よくわかんないけど、まあ、ありがぶっ!?」


前を見ずに歩いていたら、なにかにぶつかって変な声が出てしまった。
感触からして制服だ。ぶつかっちゃったんだ。反動で仰け反る体をなんとか立て直して、謝るために顔を上げる。
・・・普通なら視線が合うはずなのに、顔を上げてもまだそこは胸板だった。


「紫原、危ないだろう。・・・ああ、楸さんじゃないか」
「んー?アララ?ぶつかっちゃった?」
「や、やっほー赤司君・・・」


く、首が痛い。
見上げすぎて首が痛い。

隣で友人が、でっか・・・と呟いたのが分かった。
同感である。
紫のその男子生徒は、決して慎重の低くない赤司君より、倍大きかった。
二メートルあるんじゃない、これ。


「軽すぎて気づかなかったやー、ごめんね」
「い、いや・・・大丈夫、うん」
「つーか、アララ?この子が最近話題に上がってる楸久遠?」
「初対面なのに失礼だぞ、紫原。すまないね、楸さん」
「だ、大丈夫ってか、え?話題?」


じーっと見つめてくる紫の人。
でかさで迫力が倍増してるからあまり見つめないでほしいなーなんて思いつつ、赤司君を見た。

察してくれたのか、赤司君は少し笑った。


「移動教室だろう?邪魔したな」
「ううん、平気。じゃあ赤司君、またね」


大きな紫原君の袖を引っ張り、道を開けてくれる赤司君にお礼を言って友人と駆け出す。

何気に時間がおしていた。


「・・・普通の子じゃん、・・・」
「面白いよ、・・・・・・」


紫原君と赤司君の会話が途切れ途切れに聞こえる。

気にすることなく、私達は走る速度を上げた。

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