こんにちは。

気配を殺したつもりは毛頭なくても、大抵の人は肩をビクつかせて振り返る。
黄色い頭も例外なく、ビクリと肩を揺らして振り返った。
そして、黒子っち!と犬のように目を輝かせる。

失敗しました。見かけても声なんかかけなければよかった。

黄瀬君の頭とお尻に、耳としっぽが生えている錯覚に陥る。
やっぱり黄瀬君は犬みたいです。


「黒子っち聞いて!」
「いえ見かけたから声をかけただけなんでそれじゃあ僕はこれで」
「酷すぎるッスゥ!!」


嘆くわりに黄瀬君の顔は嬉しそうで、普段から感じていたことだけれど、改めてマゾなんじゃないかと疑ってしまった。
女の子に対しては壁を作っている(ように見える)黄瀬君も、僕達バスケ部(特にキセキ)には犬みたいに従順だ。
扱いやすいから、嫌いじゃないですね。扱いやすいから。


「・・・なんか今めっちゃ失礼な心の声が聞こえた気がするんスけど」
「きっと、気のせい。じゃないと思いますよ」
「否定して欲しかったッス!」
「ていうか本題に入ってもらってもいいですか。僕も暇じゃないんで」


黒子っちがからかってきたクセに!
分かりやすくすねた黄瀬君に背を向けて歩き始める。
彼は慌てて、すぐに追い付いてきた。


「ちょっ聞いてよ黒子っち!」
「黄瀬君がさっさと言わないからじゃないですか。僕、ちょっと用があるんです」
「じゃあ歩きながらでも聞いてよー!」


さっさと言えよこのやろう、なんて思ったのは口に出さずに、歩きながら何ですかと問う。
少しくらい口調がキツくなってもきっと黄瀬君だから大丈夫だ。


「俺も黒子っちや青峰っちが話してた久遠ちゃんと仲良くなったんスよ!」
「そうですか」
「反応うすっ」
「いや、別にそんな大したことじゃなかったと思いまして」
「えー」


唇を尖らす黄瀬君は、一体僕にどんな反応を求めてるんでしょう。

ただ、女の子に対して壁を作る黄瀬君も楸さんなら簡単に許してしまうのだろうと、推測はしていたからあまり驚かなかっただけだ。
楸さんならなんとなく、黄瀬君ともすぐに仲良くなると思っていた。

でも、少し早くないですか。


「久遠ちゃんって話しやすいッスね。俺久遠ちゃん好きッス!」
「黄瀬君、君はもう少し自分の発言に気を付けた方がいいと思います」
「へ?なんでッスか?」
「君がモデルだからですよ」


黄瀬君は仮にも、仮にも(大事だから二回言いました)モデルだ。
当然帝光の半分以上が彼を知っているしそういう目で見ている。
黄瀬君の軽い発言で、嫉妬の対象になった楸さんがなにかしら攻撃される可能性だって否めない。

黄瀬君は、あー・・・と苦い顔をした。
こういう所は鋭くていいと思います。


「でも俺、もっとあの子と仲良くなりたいんス」
「・・・そうですか」
「なんか、他の子と違うんスよね。なんていうか、一緒にいて退屈しないっていうか・・・知り合ったばっかなのに、変ッスよね」


その気持ちがわからないでもない僕は、曖昧に頷く。

あ、ここ青峰っちのクラスだと呟く彼をそのままに、歩みを進めて彼女の席まで行く。

あー子テツとりょた君だと笑う楸さん。
彼女は僕がいきなり現れても驚かない。これは最近になってわかったこと。


「どした?何か用事?」
「いえ。これといった用事はないんです」
「そうなの?りょた君は?」
「俺はただ黒子っちについてきただけッス!」
「犬か。わんこか。この黄瀬犬め」


そんな犬にはこれだー!

そう言って楸さんは黄瀬君の前に拳を突き出した。
なんスか?と首を傾げる黄瀬君に飴を投げる。反射神経のいい黄瀬君は慌てることなく受け取った。

楸さんのこの、やわらかいノリがなんとも言えない。
結構好きだったりするんです。


「はい子テツも」
「ありがとうございます」


グレープの味が口内に広がった。

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