最近、部活中に黒子っちや青峰っちがよく"楸久遠"の話をして笑っている。
あの緑間っちさえもが"楸久遠"を知ってるし。
二人がバスケ以外のことで盛り上がるのは少し珍しくて、でも俺はその"楸久遠"を知らないから話題に入れない。面白くない。

面白くなさすぎて、その"楸久遠"は、二人を利用してバスケ部レギュラーに近づいてんじゃねーの、とさえ思った。
俺もだいぶ考え方がひねくれてる。ただの嫉妬だってことは十分に承知してる。

弁当を持ってきてない今日は、購買で何か買おうと思って歩く。道中女の子に何度も声をかけられ、それにいちいち笑顔を振り撒きながら。うん、疲れた。
ほっぺが筋肉痛になりそう。

少し強めに頬をつねりながら歩いていると、前方に見知った青がいた。
青峰っちだ。途端にテンションが上がって駆け出す。

青峰っち、と声をかけて肩を叩けば、青峰っちはすぐに振り向いた。


「おー黄瀬」
「奇遇っスね!青峰っちも購買?」
「あ、そうだ。だから言ってんだろちゃんと返すって!だから120円くらい貸せよ貧乳」


え、と思い青峰っちの視線の先を見る。
でかい青峰っちで隠れて見えなかったんだろう、そこには頑なに首を振る女子生徒がいた。

俺、この子、知ってる。


「青峰氏絶対返さないもん。ていうか貧乳関係ないし。ますます貸したくない」
「俺昼食べねーと死ぬんだけど」
「勝手に死ね」


強面の青峰っちに死ねだなんて言えるんだ、この子。

ふいに目があった。
営業スマイルを張り付けて会釈すると、彼女も少し笑ってペコリと頭を下げた。
俺がよくする対女の子用の笑み、つまり作られた笑顔だった。
俺に笑顔を向けられた子はみんな嬉しそうな顔をするから、少しだけ戸惑う。


「まぁ黄瀬君の顔も拝めたしそれに免じて貸してあげよう」
「さんきゅー楸」
「利子3倍ね」


俺の顔が拝めた?
首を傾げると"楸久遠"はこっちの話だよーと曖昧に濁してきた。今度は、若干何かを楽しんでるような笑い方。
なにが面白いんだろう。


「楸さんスよね」
「ん?うん。わーどうしよ青峰氏、モデルの黄瀬君が名前覚えてくれてる」
「へーへーよかったな」
「えーこれかなり貴重な経験なんだけど」


仲がいいのかな、まぁそうか、購買に一緒に来るくらい仲良しなんだろうな。・・・いいな、

言い様のない嫉妬心が胸中を渦巻く。
青峰っちと仲良くしてる"楸久遠"にか、"楸久遠"と普通に話せる青峰っちにかはわからなかった。

ただ、二人の雰囲気に俺はまだ馴染めなさすぎた。


「んー、黄瀬君も購買に来たんなら、何か買わないの?」
「あ、」
「バカだなお前。バーカ」
「ひどいッス青峰っち!」
「はやく買わないとここマンモス校だからすぐ売り切れちゃうよ」


わかってるッス、笑って二人に手を振る。
青峰っちはそんな俺に視線だけよこして、"楸久遠"は小さく笑って頭を下げた。
そしてそのまま、振り向かずに楽しげに喋りながら歩いていく。


「・・・・・・」


周りにはたくさん人が居るのに、独りだけ取り残された気分になった。

俺らしくない。

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