あ、と声がして振り返る。
そこには、部活帰りなのだろう、少し髪の毛が湿っている子テツがいた。

軽く手を上げると、てててという効果音が似合いそうな走り方で駆け寄ってきてくれた。


「お疲れ。こんな遅くまで大変だねー子テツ」
「なんでこんな遅い時間に外を出歩いているんですか?楸さん」
「おおう私のねぎらいはスルーか」


危ないですよ、と知り合ったばかりの間柄なのにそんな心配をされるとは。
子テツは優しいなぁと思いながらつい先ほど買ったアイスの封を開けた。
ふわっと冷気が手を伝う。少し暑くなってきたこの時期に、その冷たさは心地よかった。


「つい食べたくなってね、こっから近いし衝動買い」
「家、この辺りなんですか」
「まーね。子テツは?」
「まだ少し先です」


そう言いながら、子テツは鞄を持ち直した。

いる?とアイスを差し出してみる。
子テツはしばらく考えて、じゃあ、と小さく口を開けた。

しゃくり。
虫食い程度アイスが欠けた。もっと食べたっていいのに。
遠慮はしてなさそうな彼に、とやかく言うのはやめた。


「青峰君もいまふよ」
「なんか今かわいかったよ子テツ。いまふよって」
「・・・アイスが若干口の中に残ってたんです」
「あーね。・・・でも青峰氏かぁー。見つかんないうちに帰ろっかな」


青峰氏ですか、と若干楽しげに口角を上げる子テツ。あ、子テツの笑顔初見だ。
わざわざアイス買いにきた甲斐があったかなー。


「・・・ん?てゆーか子テツ私と青峰氏が顔見知りだって知ってたの?」
「青峰君からよく楸さんの話は聞いてたので。ほんとに話どおりの人柄ですよね」
「いや知んないけどさ、変なこと言ってなかったよなあいつ」
「前髪しくった、って最近は楽しげに言ってました」


ちなみに僕が君に抱いた第一印象は、前髪です。

嫌味ったらしく言う子テツは、実はいじわるなんじゃないだろうか。
さらに青峰氏、前髪アシメにしやがったのは実はわざとなんじゃないだろうか。わざとだったらもうシカトしてやる。


「テツー・・・って、お。楸じゃねぇか」
「うわ見つかった」
「んだよその反応つれねーな。席が隣のよしみだろ」
「なんだか日本語が変です青峰君」


るっせーよ、と子テツの頭をこずく青峰氏。
ああ、仲良しさんなんだなと感じた。じゃあ私はお邪魔虫かな。

じゃあね、と軽く手を振って帰ろうとすると、青峰氏に呼び止められた。


「お前テツと仲良かったのかよ」
「いや最近知り合った。ね、子テツ」
「はい。青峰君が言ったとおりの人でした」
「ぶっは子テツって!お前相変わらずのネーミングセンスだな」
「それはいい意味で?悪い意味で?いい意味だよね?」
「あーはいはいいい意味だよ」
「なんか納得いかない答え方だな」


いいもん持ってんじゃねーか、と青峰氏が近づいてきて、持っていたアイスにかぶりついた。
一気に半分くらいまで食べられた。ええええええ!?


「ちょ青峰氏おまっ・・・ないわーマジ最悪なんだけど」
「楸さんが青峰君に会いたくなかったわけが今わかりました」
「お前オレに会いたくなかったのかよなんでだよ」
「ちょっと自分の胸に手をあてて聞いてみれば」


まだ食べたそうにしている青峰氏に、もういいやと思った私は持っていたアイスを彼の口に押し込んだ。
今度なにかおごらせよう。


「じゃあ今度こそバイバイ。青峰氏とは一週間口きかないから」
「おーじゃあな」
「はい、また明日」


くっそなんでもないような顔しやがって。

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