珍太郎について購買にやってきたあたしは、早くも後悔していた。
忘れてたけど、私が通うこの学校はマンモス校だった。
ごった返す人ごみ、背の高い珍太郎がいなかったらあたしは今頃ミンチみたいに潰されてめちゃくちゃだったに違いない。


「すごい人なんだけど。帰りたいんだけど」
「許さん」
「珍太郎何様だよ」


離れるなよ、と普通の甘い恋愛小説に出てきそうなセリフも、全然ときめかない。
なんてったって場面が場面だからね。
120円を手に進もうとする珍太郎についていこうとしたら、いきなり大きな手が私の手を包み込んだ。

・・・え。

包み込んだ本人である珍太郎は、まったく恥ずかしげもなくいなくなられたら困るからな、と眼鏡のブリッジを押し上げて歩き出した。

こいつ、本当に私の事ラッキーアイテムとしか思ってないよな。
少し、否かなりムカついたからどさくさにまぎれてふくらはぎを蹴っておいた。
さすが鍛えられているだけあってビクともしなかったけど。

そして珍太郎は、メロンパンを購入した。
どこまでも緑なのな、という私の思いをわかってくれる人はいないだろうか。


「帰るぞ楸」
「へいへい」


また手を引かれて人ごみから抜けるために歩く。
何をしなくても背の高さと髪の毛の色で目立ってしまう珍太郎。
そんな珍太郎に手を握られているごくごく普通で平凡すぎる私は、逆に目立ってることだろうな嬉しくない。まったく嬉しくない。

珍太郎ファンに睨まれてる気がしないでもないけど若干チキンな私がそちらを向けるはずもなく。
少しうつむきながら歩いていると誰かにぶつかった。


「、すみません」


声からして男子だろうなと思って顔を上げると、髪の毛が水色の男の子が無表情に頭を下げていた。

ほー、水色・・・また変わった髪の毛の色だな。
まさかこの子もバスケ部だったりして・・・珍太郎を見上げると、若干眉根を寄せて振り返った彼は少しだけ目を見開いた。


「黒子・・・お前も購買で買い物か」
「緑間君、いつの間に彼女が出来たんですか?」
「オレの質問に答えろ。そして彼女ではないこんなやつが彼女なんて死んでも有り得ん」
「あーそれが購買についてってあげた人に対してのセリフなんだそんなんだー」


黒子と呼ばれた男子の視線は、つながれた(ていうか握られた?)手を見ていた。
それに気づいた珍太郎は、忌々しげに手を離しながら今日のラッキーアイテムなのだよと呟く。
おい。私の扱いの酷さ。


「そうなんですか・・・それは災難でしたね」
「うんほんとにね」
「おい待て黒子。それはどういう意味なのだよ」
「そのまんまの意味です」「そのまんまの意味でしょ」


黒子くんとふたりして珍太郎を見上げて言う。
直感的に、この人とは気が合いそうだと思った。


「あ、僕黒子テツヤといいます」
「お、私は楸久遠です。よろしくね子テツ」
「はい。・・・子テツ?」
「こいつは変なあだ名をつける癖があるのだよ」
「む、変なとは失礼だな。ネーミングセンス抜群でしょ」
「確かに珍太郎は緑間君にピッタリですね。いっそのこと改名したらどうですか?」
「ふざけるな!」


ごく平凡な高校生私に、またバスケ部の友達が出来ました。

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