なにか特出したことなど何もない、平凡の中の平凡な人間のメス。
私は自分をそう評する。
学績も運動もそこそこ、好きなものは甘いもので嫌いなものはゴキブリ。
キセキの世代兼ねデルモなあの人のことも普通にかっこいいと思うし、会えばラッキーだと思う。進んであの輪の中に入ろうとは思えないけど、あの人と普通に話をできる女子は羨ましいと思う。眼福だよね。
流行にもついていけるし、ダサく見えない程度に制服の着崩しだってやる。
ケータイはスマホ。少し古い形の。
ただ流れ行く日々をぼーっとしながら過ごすことを愛す、平凡な。そう、平凡な学生さんである。
ただ、私の友達は平凡という言葉は似合わない人であった。
人はそのガングロを、キセキの世代のスコアラー、青峰大輝と呼ぶ。
「慎重に切ってね青峰氏」
「わーってるよ」
青峰氏がハサミを片手に、私の前に座る。
大きな彼の手に、私が愛用するハサミはとても小さく見えた。
彼は私の言葉通り慎重に、持っているハサミを扱う。
シャキン、という音とともに私の髪の毛が持っていたゴミ箱に吸い込まれていった。
「っぷはー!」
脱力したように椅子にもたれかかる青峰氏。
いちいち息止めてたらキリないよと言えば、緊張すんだよと軽く頭を叩かれた。
仲良いね、と声をかけてくれるクラスメイトに曖昧に笑っておく。
「さて青峰氏、続きを」
「やべぇ緊張するわこれ」
「服装頭髪検査なんてなければね。こんなこと頼まないんだけど」
合格する程度に綺麗に切り揃えておくれよと青峰氏の肩を叩けば、彼は小さく笑った。
オン眉にしてやろうかとかマジやめれ。
「・・・あ」
「なに!?なにが起きた!?」
「やー、・・・うん。しくった悪りー」
「えええああああ!?」
見事なアシメが完成していた。
小さな手鏡に、涙目の私が写る。
視線を上げて青峰氏を睨めば、彼は白い歯を見せながら私の前髪を触った。
「まぁこれで一発合格だろ」
「お陰さまで!」
もう青峰氏には頼まない!と叫びながらハサミを奪ってゴミ箱を定位置に戻す。
きっと来た人来た人に笑われるんだろうなふて寝してやる。
「似合ってるって」
「嬉しくない」
平凡な私の、唯一の非凡なこと。
青峰大輝と仲が良い。
―――これは、平凡を愛する少女の少し特別な日常のお話。