先生×ぼっち生徒
リクエスト



昔から僕は、家族以外の人と関わるのがあまり好きじゃなかった。

小さい頃から引っ込み思案で、外に出る時はいつも母さんの後ろに隠れながら着いて行くような子どもだった。
同年代の子ども達が楽しく皆で遊んでいる公園に行っても、僕は母さんの服の裾を絶対に離さず『光、1人で遊ぶ…』と言って、ブランコや滑り台で遊ぶ子ども達とは触れ合わず、1人砂場で母さんに見守られながら遊んだ。
どんなに周りの親が気を遣って『光くんに遊ぼうって、誘ってあげなさい』と我が子に言い、親に言われた子どもが僕を誘いに来ても、僕は直ぐに母さんの後ろに隠れて、必死に首を横に振った。
その姿に母さんは『あらあらごめんなさいね。だけど誘ってくれてありがとう。』と困ったように笑うだけで、僕を無理矢理子ども達の輪に入れることはしなかった。

僕には友達が居なかったけど、家には母さんや父さんが居て、幼稚園に行けば家以上のたくさんのオモチャや絵本が揃っていた。
だから友達がいない事を寂しいなんて思わず、むしろやりたいことを自由にやれて、楽しく、充実した子ども時代だったなと今でも思う。
だけど小学校に上がり、嫌でも2人1組になる時やチームを組まなきゃいけなくなった時は、友達の居ない僕はどうすればいいか困った。
結局毎回余った人と一緒にやり、チームを組む時は人数が足りないチームに入れてもらって、事なきを得た。
学校は団体行動が基本なので、友達の居ない僕にとって不便な事もいくつかあるが、それ以外は1人でもやっていけるので、学校生活において団体行動以外は特に問題は無かった。
だから小学校、中学校、高校と、年を重ねても僕は相変わらず友達を作らず生活をしてきた。

僕はこれから先もずっと友達を作らず、自分のしたいことを自由にして、1人を楽しんでいこうと思っていた。
だけどそれをある人が待ったをかけた。

「…なんで呼び出されたかわかるか?藤宮」
「…?」
机を挟んだ向かい側には、いつもとは違い、何処か真剣な顔付きをした松田先生が座っている。
「あまりこういうことは言いたくないんだが、お前って友達いないのか?」
先生の言葉に僕は無言で頷いた。
すると僕の反応を見た先生はすかさず
「どうして?」と。

数週間前に新学期を向かえ、僕は無事、1年から2年へと1つ学年が上がった。
そして新クラスの担任になったのが今目の前にいる、松田先生だった。
先生の事は、担任になる前から何度か生徒をからかう姿を見ていたから知っている。
生徒をからかう姿は本当に先生と生徒という関係なのかと疑いたくなるぐらい、とても仲が良さそうだった。
そんな先生は頼り甲斐があり、面倒見も良く、真剣に生徒からの相談を聞いてあげたり、褒める時はたくさん褒めてくれるらしい。
『距離感は近いけど、ちゃんと先生は生徒が不快に思わない距離を見極めて接してくれてるから、こっちも接しやすい』と、生徒達が語る先生の話をよく耳にした。
先生は大人にしては子どもっぽい部分がたくさんあるが、それでもちゃんとする時はちゃんとする人で、教壇に立って僕達生徒に勉強を教える姿は、いつもシャキッとしていて、すごくカッコイイ。
先生のクラスになってから、僕は密かに『先生は若いのに凄いな』と尊敬している。
そんな先生からの直球すぎる質問に、僕はなんて答えればいいのか、言い詰まってしまった。

無言が続く部屋の中、俯きながらなんて答えればいいんだろうと必死に考える。
正直に家族以外と関わるのがあまり好きじゃないと言うべき?
だけどそんなこと言ったら変に思われないかな?
どうしようと考えていると「藤宮」と先生に声をかけられた。
俯いていた顔をあげて先生を見ると、頭を掻きながら歯切れが悪そうに
「もしかして、その…いじめられてるのか?」と。
予想外の言葉に思わず僕は目を丸くした。
いじめられてる訳ではないと思う。自分から好きで1人で行動している訳だし。
そのことを伝えようと、顔を横に振り、ハッキリと違うことを伝えた。
そうすると先生は目に見えてホッとした顔をした。

「今日のHRでの修学旅行の班決めの時、藤宮だけ最後まで残ってただろ?だからもしかしてと思って、すげぇ心配してた」
だけど違うみたいで安心したと言い、ニカッと笑った。
松田先生が僕のことを心配してくれてたんだ。
そう思ったとき、何故か少し、胸が温かくなった。

「ってか、藤宮!お前喋れんだろ?ちゃんと喋れ。そして1人でいる理由を説明してくれ」
言い逃れはできないよなと思い、何て言おうかと頭の中でシミレーションしたあと、覚悟を決め、おずおずと僕は口を開いた。

「あの…えっと、その、」
言葉に詰まる僕を、先生はゆっくりと喋り出すのを待ってくれた。
「僕、…人と関わるのがあまり、好きじゃないんです」
言ったぞ!と思ったと同時にポンと僕の頭に先生は手を置き、僕の頭を撫でてきた。
「そうかー。人と関わるのが好きじゃないのか…」
普通に話し出す先生に驚く。
なんで先生僕の頭に手を…いや、ってか親以外にこんなことされたのなんて初めてだから、僕はどう反応すれば…
どうしようと顔を赤くさせながら心の中であたふたしていると、パッと先生の手が頭から離された。
「じゃあ俺と特訓するか。この先大人になっても人との関係性はすごく大事だし」
先生の意外すぎる返答に驚いて、思わず先生の顔をまじまじと見て、固まってしまった。

「…先生、別に僕、特訓してまで人と仲良くなりたくない、です」
「別にすげぇ仲良くならなくてもいいんだよ。ただ、2人1組になる時やチームを組めって時に組めるような相手を作っておけってこと」
確かに僕の学校生活において、一番の問題点はそこだと思う。
今だに僕は最後までペアが見つからず、余った人と組んでもらったり、先生と組んでもらったりして過ごしている。
だから先生の言うとおり、『2人1組になれ』と言われた時にパッと組めるような相手が何人か居れば、今まで組む相手を見つけるまでにかかる時間は短縮され、みんなにも迷惑をかけないで済む。

「先生、僕にできるかな?」
「俺に任せておけ」
そう言って先生はまた、僕の頭を撫でてきた。
多分これは先生の癖なんだろう。
自然な仕草で全く違和感を感じない。
それに先生に頭を撫でられるのは、少し照れ臭い気がするけど、悪い気はしない。
むしろ嬉しいなと僕はそう思った。


こうして僕と先生の友達計画(仮)が始まった。






解説
otherにある妄想ネタ5の生徒視点で、『起承転結』でいう『起』のお話です。

きっと昔、同い年の奴に理不尽なワガママを言われた事がキッカケで、人と関わるのが好きじゃなくなったんだと思います。
なので同世代や年下は駄目だが、大人の人とは割と普通に話せます。

光くんは2人1組になる時やチームを組む時に快く組んでくれる、都合の良い人を見付けたいだけで、友達を作りたいとは1mmも思ってません。
だから友達計画(仮)です。

先生はあわよくばこの事がキッカケでちゃんとした友達が何人か出来ればいいなと思ってます。


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