襟を正してみたって世界はかわらずくだらないままごとを繰り返して動き続けているよ | ナノ



今日の夜ご飯は鍋かな。今日寒いし、鍋でいいよね。冷蔵庫にこないだ買いすぎてシワシワになりかけてる白菜にんじん大根とかも少し残ってるし、簡単だしヘルシーでダイエットにも良さそう!と考えながら名前は大学のキャンパス内をうきうき気分で歩いていた。春休みにただ提出書類を出しに来たため学校はだれもおらず、名前は駐輪場に到着するとすぐにスクーターに跨って帰路についた。月島と名前は違う大学に通っている。二人の家は月島の大学よりにあって、駅からは近いが、少し日のあたりが悪く、雨の日は気圧や諸々の関係で頭が痛くなるほどである。その家から名前の大学は東方向にスクーターで15分以上先のところにある。そして、その道のりはとても信号が多かった。信号に捕まらずすいすい行けば、10分ちょいで着くし、捕まれば30分はかからなくとも25分以上はかかった。その多い信号の一番の難所は大学を出たところの信号である。帰りも初っ端からその信号に捕まってしまい、名前は周りの車が吹かす二酸化炭素と信号が青になるのを待っていた。

ら、横断歩道を渡ろうとする一際目立つオレンジ色の髪の毛を見つけた。

「しょおーよおー!!!」

ギョロリと目力のある瞳がこちらに向いた。声をかけたものの人違いではなかったことに胸を撫で下ろした名前は歩道近くでスクーターから降り、日向に歩み寄った。日向はコンビニで買ったと思われる中華まんを少し大きめなトレーナーから覗かせる手に持って華やかな顔を名前に向けた。

「名前!久しぶり!春休みあってないだけだけどなんか久しぶりに感じるな!」
「そうだね、翔陽も履修のやつ提出?」
「うん、早めに出しとかないと俺忘れるから…」

満面な笑顔からふてくされたような表情の変化をみた時、春休みの間月島と長い時間過ごしていた名前にとってなにか違和感というか、妙に目を合わせづらいような感じがした。特に目の前の日向が春休みの間に変わってしまったわけでもなく、心臓の辺りが意味もなくもやもやとして、恥ずかしさという感情に似ている気がした。

「え?なんか名前春休み前とちがくね?なんで俺と目ぇ、合わせてくれないんだ?」
「えー?そうかな?なんでだろ、なんか翔陽と話してるの恥ずかしいかも」

と言ったら日向は漫画のようにガガーン!と文字が落ちてきたような顔をしたので、思わず名前は笑った。彼女は春休みの間月島以外の人間とのコミュニケーションの取り方を忘れてしまっていた。別に春休み中ずっと一日中一緒に生活していたわけではなかった。買い物も一人でしたし、アルバイトだってしていた。なのに何故なのか。と悟ったのにも関わらず目はふよふよと泳いだ。

「…よし!今日うちでご飯食べに来て!お願い!」
「えええええ、月島怒るだろ…こええよ…!」
「最近蛍くんとしかまともに会話してなくてさー、案の定今翔陽にまで人見知りしちゃったからリハビリだと思ってお願い!」


名前はレッツコミュニケーション!!といいながら、ヘルメットを日向に向かって投げた。まずは鍋の味を何にするか相談しながらでも。

20130331
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