テレビを点ける。陽炎揺らめくアスファルトと、飛び交う真夏日、猛暑、熱中症の文字。うんざりして直ぐにテレビを消した。
窓は全開。腹立たしい蝉の大合唱と、生温い風を吐き出す扇風機。時折申し訳程度に吹き込む風に、ぶら下げた風鈴がちりーんと力なく鳴いた。
暴力的とすら言える暑さが猛威を奮う、夏。ここ数年故郷の地を踏むことがなかった所為か、すっかり忘れていた。
照りつける太陽、肌にまとわりつく湿気。
日本の夏を、舐めていた。
「アレルヤー暑いー…」
「うん?」
「アレルヤ暑くないの?」
少し離れた所でパラパラと雑誌を眺めていた彼が顔を上げた。こんなに暑いのに何でそんな涼しい顔をしていられるんだ、訳がわからない。
「大丈夫、僕は人より暑さに強いから。」
「えー…」
穏やかな微笑みを添えて平然と返された言葉に私は項垂れた。何が人より暑さに強いだよ…暑さで頭どうにかなってないですか、大丈夫ですか。
くそう、何だか悔しい。私はおもむろに立ち上がり、アレルヤの背後にゆらりと立った。そして。
「…オニキス?」
べたり。筋肉質な広い背中に張り付くようにくっついた。首に腕を回して、それはもう隙間もないくらいぎゅうぎゅうと密着する。
「オニキス、胸当たってる…。」
「胸がなによー。どうだ暑いかざまーみろー…暑いよー…」
駄目だ暑い、暑すぎる。暑さの所為で頭がどうにかなってるのは私の方だったようだよハレルヤ…。けれど何となくそのままじんわりと伝わるアレルヤの体温を感じていた。
「そんなに暑い?」
肩が小さく揺れる。アレルヤが小さく苦笑したのだ。
「これ以上暑くなったら私溶けて形なくなる…」
「それは…、大変だね。」
すると首元に回していた手がほどかれ、突然温度が離れた。あぁ、あれだけ暑いと感じていたのに、何でだろう。離れたら離れたで名残惜しく感じる。
「ならいっそ、もっとアツくなろうか。温度なんてわからなくなるくらい。」
「……は…?」
何だか可笑しな言葉が聞こえたような気がする。ぐい、と手を引かれ、背中にひんやりとフローリングの感触。目の前に背中を見せて座っていた筈の彼が、いつの間にか天井と共に上から私を見下ろしている。はらりと落ちた前髪の隙間からは金と銀の妖艶な笑み。
あら、これは予想外の展開だ。
「どうせ溶けるなら、その前に僕がオニキスを融かしてあげる。」
「待っ…冗談…」
「待たないよ。」
焦る私の言葉も待たずに、スイッチの入った彼の口づけが降ってくる。優しい感触。私は観念して…否、きっと期待して、ゆっくりと目を閉じる。
呑まれて融けるそれも悪くないかもしれない、なんて。
20110820
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