「オニキス、放課後職員室に来い。」

呼び出し方は、教師という立場を利用した至って単純な方法だった。帰り支度を整えて職員室を訪れれば、事務的な動作で試験の採点をしている彼が目に入る。

「先生?」

「よぉ、来たかオニキス。」

声を掛けるとニールはピタリと手を止めて顔を上げ、引き出しの中から進路指導用の青いファイルを取り出して椅子から腰をあげた。そのままオニキスを促して職員室を出ると、一つ上の階にある進路指導室に向かう。

「先生、私何かしましたっけ?」

呼ばれた理由は分かり切っているのに、敢えて先を歩く広い背中に尋ねる。オニキスの質問に生返事を返して進路指導室に入ると、ニールは扉を閉めるなり肩を落として盛大に溜息をついた。

「なぁ、オニキス…。二人きりになるのに何でこんな神経使わなきゃならねぇんだ…?」

「それはここが学校で、先生が先生で、私が生徒だからでしょ?」

「…わりに合わねぇな。」

先生と生徒である以前に恋人同士。互いの立場上表沙汰に出来ない関係に吐き捨てるように呟くと、ニールは手近にあった椅子に腰掛けてオニキスの体を自分の方に引き寄せた。座ったことで丁度いい高さに来た胸元に甘えるように頭を預け、そのまま腰に手を回す。

「先生の甘えん坊。」

「先生、じゃねぇ。」

「…ニール。」

小さく笑って名前で呼んで、両腕で包み込んで何度か頭を撫でてやる。普段の“先生”からは考えられない程の甘え様だ。教師と言う肩書きを外せば、彼も一人の男でしかない。

強く腕を引かれてバランスを崩し、ニールの膝に座り込む。何か言う間すらなく即座に唇が重なり、オニキスは目を閉じた。

「ん…っ」

貪るような長いキス、それに呼吸を奪われる。ニールは食むように軽く口付けを繰り返し、僅かな隙をついて強引にオニキスの舌を絡め取った。渇きを満たすかのように何度も口内を犯す彼に翻弄され、全身の力が抜けそうになる。

「んぅ…、ニ、ニール…!?」

が。体を這う彼の手つきがだんだん怪しくなり、オニキスは慌てて両腕でぐい、とニールを引き剥がした。

「んー?」

「人が来たらどうするの…!」

「誰も来やしねぇよ。」

聞く耳を持たず再びオニキスを引き寄せると、制服の裾から手を忍ばせ背筋を這い上る。器用に片手で下着のホックを外し、ニールは支えを失ったオニキスの胸を掬い上げるように手中に収めた。

「や…、ニール、駄目…!」

「いいじゃねぇか、ちょっとくらい。」

「あぅ…っ、駄目、だって…!」

次第に歯止めが利かなくなってきたのか、最初は触れていただけの手の平が、次第に緩急を付けて巧みに膨らみを揉み始める。

「そんな嫌がるなよ…、傷つくだろ?」

「……や、…ぁ…ッ」

必死に殺すが思わず漏れてしまう声。進路指導室に鍵は付いていない。もし万が一こんな所を他の教師や生徒に見られでもしたら、只で済まないことは火を見るより明らかだ。甘い刺激に体を許しそうになりながら、オニキスは尚も必死に身を捩り抵抗を試みる。

「駄目、だって…!後少しで卒業なのに、退学とかなったら困る…!」

「俺より世間体のが大事か?」

「違っ…そんなんじゃ…!」

一瞬で顔色を変えたオニキスの頭に、ニールは自嘲気味に笑ってぽん、と手を置いた。

「…わかってる。悪かった、ごめんな。俺の心配してくれてんだよな。」

泣きそうに歪んだ表情を浮かべて硬直したオニキスをすっぽり胸に収めて抱き締め、ニールは宥めるように背中を擦る。優しい感覚に、オニキスは縋り付くように彼の体に腕を回した。

「…。」

「大人げねぇな、俺。けどさ、」

顔を見合せ、もう一度軽くキスをする。と、どこか気まずそうに頬を赤らめ、照れ臭そうにニールが呟いた。

「お前見てると余裕無くなるんだよ…。」





個別愛進路指導











20080502



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