踊り場の手摺りに肩肘を置いて頬杖を付き、オニキスは階下に広がるダンスホールを見下ろした。わらわらと群がる人の群れは、見ているだけでも気分が滅入る。
「全く…これも任務の一環とは言え、人混みは嫌いだわ。」
思わず口を突いて出た溜息に、ロックオンは苦笑を浮かべて宥めるようにオニキスの肩に手を置いた。
「まぁ、そう言うなって。俺はむしろ、ミス・スメラギの見事な采配に感謝したいね。」
ロックオンが視線を落とせば、そこには普段の彼女からは想像出来ない、深紅のドレスを身に纏ったオニキスの姿。惜し気もなく大きくはだけさせた胸元に目が止まり、我に返って引き剥がす。
「よく似合ってる。」
「…ありがと。ロックオンも、ね。」
恥ずかしそうに笑って、オニキスは黒いタキシードに身を包んだロックオンを見上げた。
「綺麗だ。」
吸い寄せられるように、鮮やかな紅に彩られた唇に口付けを落とす。
「…任務中よ?ロックオン。」
その声に嗜めの色はない。オニキスはロックオンの唇に移った紅の色を、つい、と指でなぞって拭い取った。
「堅いこと言うなって。お偉方のパーティーに参加出来る折角の機会だ。楽しもうぜ?」
「……もう。」
照明が徐々に落とされていき、場内にはゆったりとした調べのワルツが流れ始める。ロックオンは優雅な礼と共に、オニキスの前に右手を差し出した。
「オニキス……一曲、踊っていただけますか?」
「えぇ、喜んで。」
その手を取って答えると、ロックオンは微笑んで、恭しくその手にキスをした。
Shall we dance?20080305
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