■ 偶然の辿り行く先

 普段なら明るい声でにぎわっているその場所は、ただ静かに言葉が紡がれるだけの場所となってしまっている。それは、売り場の目の前で火花を散らす二人が原因だった。

 妹への贈り物を買いに来た、四葉音翠。
 敵への貢ぎ物を買いに来た、桜庭理人。

 いや、まあ理人に関しては「貢ぎ物」と言ってしまうと怒り出すのだろうが、周囲から見ると、それによって大和側の対応を軟化させようとしている、と思われても仕方がない関係の相手に贈ろうとしているのだから、諦めざるをえない。もっとも、今回の「貢ぎ物」は対応を軟化させるには些か小さなものなのだが、塵も積もれば、である。
 さて、二人が同じ日の同じ時間、同じ場所へとやってきてしまったのは本当に偶然だった。

 偶然、懐が暖かくて。
 偶然、彼女に贈り物を、なんて考えて。
 偶然、これにしようか、と選び抜いて。

 そんな小さな偶然が積み重なった結果、同時に同じ商品に手を伸ばすこととなったのだ。自分の隣に立つ人も同じ商品に、それも、最後の一つに手を伸ばしたとなれば相手を思わず確認してしまう。そして、互いに敵対関係にある家の人間だと気が付いてしまったことが運の尽きだった。直接的な関係は無いものの、互いに立場ある家の人間、顔と名前は覚えている。

「だから、これは僕が先に手を伸ばしたんです」
「何を言ってるんですか。僕ですよ」

 丁寧な口調が染み付いてしまっている二人だからこそ、口論も丁寧な言葉のまま。それが余計に周囲への威圧感を振りまいているのだが、どちらが先に手を伸ばしたか、ということで勝敗を付けようとしている二人は全く気が付いていない。

「大体、あなたが贈る相手は依織さんでしょう? 彼女が受け取るとは思えませんね」
「何だかんだ言いつつ、いつも受け取ってもらえてますからね」
「ああ、受け取ったふりをして後で捨てているんでしょう」
「勿体ない精神を地で行く彼女が、そんなことをするわけないでしょう」

 何とか返しているものの、理人のメンタルはゴリゴリと削られている。精神攻撃とは流石四葉音、と軽く現実逃避をしていなければ、正直やっていられない。

 はたして、軍配はどちらに上がるのか。
 軍配よりも先に、営業妨害だと店員が飛び込んでくるのか。

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