■ 言葉なんて通じたら問題ない

 気味の悪い鳥を見つけた。

 そう連絡が入った時に、自由に動けるのが自分だけだったというのは互いにとって不運なことであったに違いなかった。捕まえられてしまった「彼」にとっても、判断を下すために動かざるをえなかった自分にとっても。

「だから! 私は怪しい存在などではないと言っているだろうが!」
「鳥が喋るって時点でアカンのや!」

 呼びつけておきながら出迎えも無い。これについては、家にいるのが一人だけであるということを鑑みて良しとしよう。気味の悪い鳥を監視する人間がいなくなってしまうよりは、出迎えが無いくらいなんだというのか。ただ、仕方がないからと敷地内へと侵入し、声を頼りにどこか入れそうな場所を探してみた榛葉が、縁側にて口論を繰り広げている一人と一匹を発見した今、そのどちらもが榛葉に気が付かないというのは我慢がならなかった。榛葉から両者を視認できるということは、その逆も然りなのだ。それなのに何故、という思いが強い。 だがしかし、今回、連絡を入れてくれたのが代々温羅家にとっていい金蔓となってくれている家の人間であったために、荒っぽい対応は止めた方が賢明であると思えた。ならばどうするか。手っ取り早いのは、音を立ててこちらの存在に気付かせることである。

「状況説明、してほしいんやけど」

 どうもループしているらしい議論に、とりあえずの終止符を。息継ぎの間を見計らって投げかけられたその言葉に、彼らはようやく榛葉の存在を認識したようだった。金蔓一族に嫁いだ「奥方様」と、檻に閉じ込められている真っ白の羽毛に覆われた鳥。榛葉は種類に詳しくないのではっきりとしたことは言えないが、大型であり、鋭い爪と鋭利な嘴を持っていることから猛禽類であることは確かだろう。問題はその種類ではなく、その鳥が喋っている、ということ。各々が同時に話し始め、時には互いの「間違い」を正しながら説明されたその内容を要約するならば、趣味で行っている果樹栽培において野鳥に実を喰い尽くされることを危惧した奥方様が張った罠に、この「鳥」がかかったということであった。あまりにも煩いので、奥方様には適当な理由をつけて外出しておいてもらうことにする。ようやく静かになった屋敷の中でほっと一息ついたのは榛葉だけではなく鳥も同じだったらしかった。

「まったく。あの騒々しさは何とかならないのか」
「あー、あの奥方様、大阪の中でも割と口達者なとこから来はったから」

 おおさか? とたどたどしく反復する鳥に、榛葉は少々面倒なことになったなと思った。地名が通じず、しかし意思伝達に問題が無いということは、どうやらこの鳥はこの世界とは異なる時空間からやって来たということだ。多いわけではないが、無いわけでもないこの現象については少々面倒な手順を踏まなければならないが送り返すことが可能であることが確認されている。面倒だというのは、奥方様が絡んでいるからだ。こういった「不思議」に対して説明を求めるくせして、証拠が無ければ疑いに掛かってくる。目の前で送り返してもやっても良いのだが、あの騒々しさとその性格だ。過去にもさまざまな術をぶち壊してくれた要警戒対象である。対処についてはあとで考えるとして、まずはどのような存在であるかということを見極めなければならないというのも面倒だった。この世界に来た時点で、温羅一族に声がかかった時点で何をされたって自業自得だという思いが無いわけでもないが、別の時空間では重要な存在であった場合に問題が生じてしまう。

「名前、あるん?」
「カルせ、という名が。お前は?」
「陰陽師やっとるんやけど、陰陽師は分かるか?」
「直接会ったことは無いが存在は知っているな」

 お前がそうなのか、と問うカルせに小さく頷き、続けて何者なのかと問う。帰ってきたのは、旅人である、と。そして、厄介な情報が一つ。

「……待って。もう一人おるって」
「ああ、共にここへ渡ってきたはずなのだ。が、 逸れてしまったらしい」

 探しに行きたいので解放してほしいと言い放つカルセにどうしたものかと悩んだ榛葉だったが、空狐から連絡が入った。神社に侵入者あり。旅人だという少年で、仲間である鳥を探している、と。

「良かったな。探し相手、見っけたで」

 本当か、と喜びのあまり羽を広げようとしたらしいカルセだったが、檻の狭さに断念する。どうやって入ったのかと思うほど窮屈そうなのだが、簡単な話であった。時空間を飛び越えて出た先が、檻の中だったらしい。早く連れていけと煩いカルセをとりあえず黙らせると、榛葉は外出中の奥方様に連絡を入れた。鳥は他の力を持った人間が悪戯で術を掛けたもので云々。とりあえずは納得したらしい奥方様に今回の支払い金額を告げて電話を切る。

「よし、行こか」
「良いのか? 随分と投げやりな対応であるように思えたのだが、依頼主なのだろう?」
「奥方様はな、金の卵を産む雌鶏やから」

 欲張らなければ、確実にお金を生み出してくれる素敵な存在。遠まわしにそう言い切った榛葉であったが、カルセにはその例えが通じなかったらしい。この世界では鳥が人型になれるのか、と驚いていた。

(どうせ、表面的なことしか分からんのやし)


雲房十時さんよりハロウィン企画で「探す旅人」と「やおよろず」のコラボを書いて頂きました♪


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