創作memo | ナノ

 消えた先にあるもの

此処は、どこ?
あの人は……朔は、どこにいるの?

――響葉(オトハ)。

朔。そこにいるの?

――ごめんよ、せめて君だけは戦いに生き抜いてほしい。

どうして謝るの? ねえ、答えてよ。
私だけって。朔がいないと私無力だよ。
ねえ、朔。

いかないで……消えないでよ……!

 ◇

「――――――朔!」
自分でも驚くくらいの大きな声が響いて、私は目が覚めてしまった。
意識ははっきりしているのに、何故か息苦しく感じる。見慣れた天上を見つめて初めて自分の部屋のベッドで寝ていることに気づいた。
ぼんやり眺めてると、誰かが部屋に入ってきた。黒い髪に白と赤が組み合わさった服装の少年。少々目つきの悪い少年は上半身を起こした私を確かめては「あ」と言った。
「響葉、気が付いたんだ」
「恵賜……どうして…」
「お前、ずっと高熱出してたんだ。朔(サク)さんが死んでからずっと……意識が戻らないのかと思ったよ」
「そう、なんだ」
言われるまで気づかなかった。私は熱を出して寝ていた。だからこの少年が見舞いに来てくれている。
申し訳ない気持ちとは別に、恵賜が後から言った言葉を思い出す。
(朔が、死んだ……)
あの日。敵国軍との戦いの最中、あの人は死んだ。
逃げ遅れた一般人を庇って。誰に対しても優しい朔は敵の刃に貫かれて絶命した。
私は何も出来ず、ただ名前を何度も何度も叫んで呼んで。
でも、二度と目覚めてはくれなかった。
「朔……」
無意識に亡くなった人の名前を呼ぶ私を気遣ってか、それとも暗くなってしまった雰囲気に耐えきれなくなったのか、恵賜は「響葉!」とベッドに身を乗り出した。
「恵賜?」
「お、俺が守ってやる! 何があっても絶対にだ!」
「あ…ありが、とう」
彼があまりに必死だったため、呆然としてしまった。そしてなんだかおかしくなって噴き出した。私が笑ってるのを見て、彼は最初不思議そうにした。
やがて安心したらしく、恵賜は「元気になったみたいでよかった」と微笑んだ。

失ったものは二度と取り戻すことはできない。
でも、守ることは出来るはず。
だから。

自分を殺すのは、まだ先に伸ばしておくことにした。

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2015/06/07 (21:59)


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