創作memo | ナノ

 出られない国の話

何年か前に、この国は一度入国すると思うように出られなくなってしまうことを、よその国で聞いたことがある。試しにその国に行くという人たちに頼み込んで連れてってもらうとまさに出口のない建物にでも閉じ込められたと勘違いするほど、過酷な環境が待っていた。
外からやってきた僕を見た住人は皆驚いた様子で「アンタもこの国に来てしまったのか」と口をそろえた。
昔此処に住む原住民と移民の間で戦争が勃発し、勝利したはいいが、以来限られた方法でしか出国することが出来なくなってしまったのだという。
「お金がたくさん手に入るって聞いたんだけどなー」
一緒に来た人たちも金を目的としていたのだが、鉱山で儲かるのは昔の話。現在は一握りも手に入らなくなってしまった。
話を聞いた人たちは「騙された!」と憤るけど、思い込みでやってきたのだから自業自得だと思った。
無論、僕も気になって入国したのだから人のことは言えない。けれど、彼らのように金は必要になる時にしか求めないし、探しているものがあれば充分達成できる。
無かったらこの国では出国の当てが見つかるまでこの国に滞在しようと考えていたので問題はない。
首都ともいえるセントラルを一通り見ていく。歩くだけで賞金首に関する貼紙を見かけたり、怒声や叫び声が飛び交っている。働かないで泣き崩れている人もいた。
「色んな人がいるんだね」
出られないからこそ必死で生きている。泣いてばかりの他人便りではいくら待っても状況を改善することはできないだろう。
もっと面白いものはないかな。例えば前は凄かったのに、今では隠れて暮らす脅えた英雄さんとか。本当にそんな人がいたら興味が湧くけれど。
そろそろ宿に戻ろうと踵を返した矢先、後ろで歓声が沸きあがった。気になって振り返ると、街の入り口付近で人盛りが出来上がっている。囲まれているのは大人か子供か判断しがたい青年。
多くの人に言い寄られてか多少動揺していた。
「金を採ってきたのか!?」
「よくやった。これで俺たちも出られるぞ!」
「嘘吐きのこの国からおさらばだー!!」
どうやら青年は鉱山で金を掘り当てたらしい。それで彼らは自分たちも出られると思っているのだろう。
しかし、喜んでいたのは束の間。歓喜を上げていた大人たちに対して青年は酷く冷静な声音を吐いた。
「アンタらに金をやるわけにはいかない。これは掘り起こした俺のモノだ」
「なっ……どういうつもりだ!?」
青年のこの台詞の意味を最初は訳が分からなかったが、やがて理解すると囲んでいた一人の男が怒鳴った。
鬼のような形相で青年の襟元を掴み、殴る。殴られた方は素直に崩れ落ちるも、その眼は冷めたものだった。
「どういうつもりも何も、俺は枯れた鉱山で少ない金を手に入れた。けどアンタらのためじゃない。俺はこの金を使って切符を買うんだ」
「ふざけるな! 切符を買うなら多少は余るだろ。それを俺たちに寄越せってんだ」
「何の苦労もしないで楽に出ようとしているんだな。そんなやつはサジッタに乗る資格はない。いつまでもつまらない悪あがきでもしていろよ」
見下すように言うと、青年は起き上って群衆の間を通り過ぎていく。ぐうの音も出ない男は悔しそうに叫んでいた。
「俺だってな、ひでえ場所だと知ってりゃ来なかったさ。騙されたんだよこの国に!」
青年の言った『サジッタ』が何を差しているのか解らないが、恐らく国を出る一つの方法だろう。その方法を手に入れた青年は小さい袋を手に持って静かに去る。丁度宿に向かうのと一緒の方角に進んでいたので、立ち止まって見ていた僕の横を彼は通り過ぎて行った。
あんな風に簡単に断ち切れる人もいるんだなと、取りとめのないことを考えては、お腹が空いたので颯爽と宿に戻った。

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2015/05/30 (22:16)


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