創作memo | ナノ

 アルセシ短編

◇手を繋ぐのは信頼の証



 旅を始めてどれくらい経ったのだろう。
アルンは青い色の中、ゆっくりと流れる雲を頭を上げては眺めていた。
 あの日、いつもどおりの日常が訪れるはずだった。自分は学院で特に目指してもいない魔術師の勉強や剣術の稽古をしたり、同じクラスの友達と談笑。家に帰っては父親と契約を結んでいるという最高神魔術師と鍛錬をする毎日。そんななんてことない日常が、突如ダークカルセの襲撃で一変した。隻眼の魔術師とグレイシス家当主と力を合わせて倒すことが出来た。しかし、その事件が発端となったのか、十日後、父は忽然と姿を消した。
 母が言うに、父は昔の相棒を探しに行ったのだという。アルンは父親を探すため、そして予言にある『神々の終焉(ラグナロク)』の真実を求め、学院を抜け出しては旅に出た。
途中、セシリアがどうしても付いていくと言ってきかなかったので仕方なく一緒にいることになった。セシリアは闇の眷属と言われるダークエルフ。いつ他種族からの迫害を受けるか分からないため、彼女は自分が守ると心底に決めている。今はもう一人ジュダスという謎の青年が一行に加わって賑やかになってきた。
 道中歩いてばかりなので、昼過ぎ辺りまで休むということにしている。

「ふう……」

 アルンは一息ついては右隣で気持ちよさそうに寝息を立てている少女に視線を落とす。優しい表情で見る夢はきっと良いものなのだろう。一切の不安を感じさせずに時折「ふふっ」と笑っては再び眠りに入る。

「セシリア……」

 ダークエルフが特徴の薄褐色の肌に紅い髪。本来なら光の眷属の血が入っているアルンとは敵対する関係。だが、彼女はそんなのお構いなしにごく普通に接してくれている。
 アルンは彼女の名前を呼んではその手の甲に自分のをそっと乗せた。たったそれだけの動作がいけなかったのか、セシリアは少しだけ唸りながら閉じていた瞼を上げた。

「あ……」
「ん……アルン、どうしたの」
「えっと、その……」
「?」
「こ、こんなところで寝ると、風邪ひくから! 起こそうと思って」

 まさか起きるとは思っていなかったのだが、咄嗟の勢いで言い訳を考えた結果がこれだ。何となく手を繋ぎたかったとか、多少は思ってはいたが。
 セシリアはアルンの言い訳じみた台詞を聞いては「そうなんだ」と微笑んだ。

「でも、アルンなら風邪をひかないように工夫してくれるよね。私が転びそうなときは支えてくれるし」
「そう、だね」
「そういうのって、互いの信頼が無いとできないと思うんだ」
「信頼……」

 アルンはセシリアの言葉を口に出して考えてみる。魔物との闘う際、アルンは前衛に立ってはジュダスと共に共闘する。セシリアは魔術を扱うため、後衛ではあるが二人をサポートするに相応しい。敵と戦うだけでなく、共に旅をすることは信頼がないと成り立たない。幼い頃に一度だけ会い、学院で再会した二人の間には、それだけで強い絆が結ばれつつあった。こうして手を繋ぐのも、互いの信頼があってこそだと思う。

「信頼かー。いいな、それ」
「うん」

 セシリアは嬉しそうに笑う。アルンも、彼女の笑みに釣られたわけではないのだが、おかしくなって笑った。

「あのー、お楽しみの所申し訳ないんだけどー」
「わっ、ジュダス!」

 二人が笑っているところに一人だけ除外されていたジュダスは手を上げる。さっきまでは後方で寝ていたはずなのだが、いつの間に起きたのか。彼は紫の髪を指に絡ませては後ろに付いていた。

「いきなり驚かなくてもいいじゃんかー。ジュダス君傷つくよー」
「戯言はいいよ。で、何」
「そうそう。お二人さん楽しく笑っていてお兄さんも入りたいなーとは思うんだけど、流石に手を繋いでる中には入れないのよねー」
「え……手?」
「あああああああああ!!」

 ジュダスの一言で思い出した。そうだ、俺はセシリアの手を握っていたんだ。彼女があまりにも嬉しそうに笑うもので気づかなかったのだが、今になって見られると照れくさい光景だ。セシリアも指摘されては気づいたのか、アルンの手を見ると自分の手と繋がっていたので、慌てて飛び起きた。そして二人は正反対の方向に顔を背ける。両者の顔は恥ずかしさの為か赤くなっている。

「ああれー? もしかして無意識―?」
「ジュダスは黙っててよ!!」
「うっわ、アルン君かわいいなー!」
「うるさーい!」

 アルンは赤面になりながらもジュダスに怒鳴りつける。ジュダスは関係ないとでも言うように素早く立ち上がっては駆け出し、アルンは彼を捕まえるべく後を追った。

 セシリア、もし迷惑じゃなければ……。
 君を、守ってもいいかな?
 俺、思うんだ。
 信頼っていうのは確かめるものじゃなくて、既にあるものなんだって。
 だから。
 君は光を失わないで。



【手を繋ぐのは信頼の証……fin】

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2014/11/28 (00:07)


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