創作memo | ナノ

 

 季節の中でも比較的過ごしやすそうな天気に遠くの森に出かけてみたら、そこで木に登っている男の子と出会ったのは良い思い出だ。何を考えていたのかその子は空を見上げては立ち上がっては木から飛び降りた。あまりにも突然すぎることで驚いた私は思わず「何をしているの?」と声をかけてしまい、結果男の子は地面に激突してしまった。
 落下したのは私に原因があるだろう。あそこで何も言わなければきっと怪我をするだろうと心配していたが、そうでなくても同じ結果になるのは目に見えていた。
 痛そうに背中をさする少年を心配し、怪我を治した時には驚かれた。別に魔法はコツさえ掴むことができれば無詠唱でも行えると両親から教わっていたのでその通りにやっただけなのだが、男の子が言うには普通は魔法陣を出せても呪文を言葉に出さなければ発動されないらしかった。
 互いに自己紹介をし、帰りに再び会う約束をしてからは思うことがある。

「次会うの、いつなのかな……」

 約束は取り付けられても、次は何処で、いつ対面しようかまでは残念ながら決めてはいなかった。一度会っただけなのだが、どうしてもそれきりということが出来ない気がしてならない。
 会いに行きたい気持ちはある。会って何を話すのかはその時になってみないとわからないが、その行為だけで満たされそうな気がするのだ。
 アルンと名乗った少年と別れて村へと帰った私は長に呼ばれていると言われ、両親と共に長のいる家に向かった。村一番の種族特有の技術で作られた木造建築の家に入ると、村で最も長寿と知識を持つ老人が杖をついていた。
 何の話なのだろうと不安に思っていると、父が私の一歩前に出た。

「長老、娘を連れてきました」
「うむ」

 老人は一つ頷くと、目線を私に向ける。

「また、無断で外に行ったのじゃな」
「あ……はい」

 開口一番に出た言葉は、確信したような口ぶりで、決して否と言わせられない雰囲気を醸し出していた。そのため、否定をしたくても正直に答えてしまった。私の種族は他よりも特殊でありなおかつ数が少ないため、人族に希少価値があると狙われやすい。現に村の複数人が数ヶ月前から行方不明になっており、大人たちが調査した結果彼らは金もうけを企んでいる悪徳商人に捕まったと聞く。そのまま奴隷や愛玩として遠くの国に売り払われてしまうのも珍しくはない。
 人身売買に遭わないために、普段はひっそりと生活し外に出るのは村で生産している薬草を薬に調合して街に売りに行く時だけだ。子供は危ないからと村の中だけで過ごすように言いつけられていた。その言いつけすら守らないで外出していた私は怒られてしまうのではないかと多少の覚悟をしていたのだが、老人の口から聞いたのは予想を上回っていた。

「え、今、なんて……」
「今後はあの少年に会わぬように」

 老人は厳かにそう言った。あの少年とは、一人しか心当たりがない。アルンのことだ。
 どうしてアルンのことを知っているのか。質問しても答えてはくれず、かわりに今日からは本格的な魔力の使い方を学ぶように言われた。その日から、私は彼に会っていない。

「会うな、と言われてもなー」

 接触禁止を言い渡されても効果は逆になってしまう。会うなと言われたら会いに行きたくなる。しかし、魔法修行の一日のノルマは夕方以降となる。より高度なものを学ぶように書庫から魔法学の書物を明後日は試しに使ってみるの繰り返しで、慣れてしまえばあとは自由だ。夕方になってしまえば親の監視が厳しいものと化し、外に出ることもままならない。
 だから、初めて会ったあの日から、私は彼に会いに行けていない。身を心配してくれるのはありがたいのだが、拘束されるのはごめんだ。
 もう一度彼と会って話をしてみたい。今度はちゃんと約束をして。

「……よし」

 一つ頷いた私は、周りに人がいないか確認した後、今し方覚えた移動魔法を発動させた。


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2014/10/06 (22:38)


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