【26,身体測定は大波乱!? 】







「じゃあストレッチして、次は背筋の用意をしてください」



生徒に指示をしながら都筑のカードに回数を書き込む武中。眞壁が復活したことを伝えれば「もう無茶はしないように」とお叱りを受けてしまった。

ストレッチを忘れず行い、復活した相方を受け入れる。次の背筋、反復横跳びも眞壁のような全力は出さず都筑なりの加減でやり過ごすことが出来た。

やはり年相応の平均より上となってしまうが、相方の方がダントツに回数を稼いでいるので特に目立つことはない。

しかし次のコーナー、握力測定と垂直跳びには若干の不安が入り混じっていた。



「ふぬぅうう!」



都筑の前に並んだ眞壁が握力測定機に力を入れる。無駄に頑張った結果、なんと65という測定値を叩き出していた。

浮かれる眞壁を尻目に都筑も測定機を握りしめる。手の大きさが合わず握りにくい為、少し力を入れ過ぎてしまった。その結果。



「ろ、67!?」



測定値をカードに書き留めていた保健委員が声を裏返し驚いている。

全身から汗が噴き出した。とっさに頭を巡らし、眞壁を指差す都筑。



「あ、あいつが馬鹿力で握ったから故障しちゃったんですよ!だから僕、こっちのでやります!」



細心の注意を払い、測定値を見ながら力を入れる。平均が分からないのでちょうど30ぐらいで止めれば、やはり先輩は驚くばかりだ。



「30でも凄いよ君!僕が同じくらいの年では20行くか行かないかくらいだったからね!」

「すげぇな煉!まさか隠れマッチョなのか!?このっ、このぉ!」

「わ!急にベタベタ触るな一輝!僕、別に鍛えてないし!」

「そうだな。触って分かったけど、煉、筋肉ねぇ」



とりあえず失礼なことをほざいた眞壁を沈め、先輩に書き込みを促す。死体の脚を引きずりながら垂直跳びのコーナーに行くと、今度は保健委員の説明を受けて列の最後尾に並んだ。



「はい、次は一輝の番だよ」

「うっし!オレはうさぎになる!」



景気良く復活した死体はどう聞いても格好良くない決め台詞を残しスタンバイした。

数字が書かれた壁際に寄り、「うりゃあ!」という無駄な叫びと共に跳躍する。彼の手が届いた記録を書き込むのは黒縁眼鏡の先輩女子だった。周りは歓声を上げているので、おそらく凄い記録だったのだろう。

凄い記録であのくらい、と自分に言い聞かせ、都筑も壁際にスタンバイする。

さっきから嫌な予感がして仕方がない。だって都筑は深夜の特訓で一番長引いたのが手加減しての跳躍だったからだ。



「うわ、っと」



明らかに眞壁より跳躍しながら、下降途中で壁にタッチする。その場の全員が「ん?」と目を見張った。

しかし運が良いことに黒縁眼鏡の先輩は記録重視のようで、都筑がタッチした場所の記録をカードに書き留めている。

何食わぬ顔でそれを受け取り眞壁のところへ戻れば、その場の空気はいつものものへと戻っていた。単純な眞壁もあそこが記録だと刷り込まれたのか特に驚いた様子は見受けられない。



「次は予備会議室で聴力検査だね」

「おう。さっさと終わらせて一番乗りで教室戻ろうぜ」

「頑張って。僕は午後のシャトルランまで体力温存するから」

「ぬぬ!その手があったでござるか!」

「お主、それも考えてなかったのか」



眞壁のエセ時代劇に乗せられながら次の場所へと赴く。内科検診の関係で男子が聴力視力などを回っている間女子が内科検診を受けるという形の受診巡り。聴力視力共に"基なる魂"の影響は少なく、都筑の診断結果にも特に異常は見られなかった。

ちなみに聴力は王崎先生と御堂先生のダブル担当で、部屋に入った瞬間温度が2、3℃下がった気がした。会話をしたかったのだが静かに検診を受けることが絶対の聴力検査。険悪な空気だったこともあり仕方なく断念した都筑は次の場所へと渋々脚を運んでいた。

歯科検診は2人虫歯0。最後は内科検診でこれが午前の最後となるが、眞壁とふざけながら回っていた為だいぶ遅い時間となってしまった。しかしまだ時間はあると気楽に保健室へ脚を運んだ都筑達であったが、その廊下前でわんさかとひしめき合う男子生徒達の群れと遭遇する。

いったい何事だと同じクラスの生徒に尋ねてみる。彼によれば検診をしているのはこの学園の保険医らしく、その人がとびっきりの美人だと言う男子高校生に良くある話だった。



「はーい、次の人ー」



数十分かけてようやく保健室の中に入れた都筑の耳に仕切り越しから聞こえた女性の声。甘く色気のある声だ。反対に仕切りから出てきた上半身裸の男子生徒は鼻血を垂らし惚けている。

よほどの美人さんと見た。ただ、都筑はあまり興味が湧かなかった。何故なら今都筑の中で一番なのはあの王崎暁斗だからである。同性に恋をするほど彼は都筑にとってとても魅力的で。それは不動のまま前から7番手まで列を進んだのだが、ここで前にいた眞壁が上半身の服を脱ぎ始めた。

側のテーブルには女性の筆跡で「ここで服を脱いでね。女子は下着OKよ」と語尾にハートマークが描かれた貼り紙が施されている。しかし都筑はあまり服を脱ぎたくなかった。周りは男として完成しつつある体付きなのに、自分だけまだ子供のような体格だからだ。

列が進み順番が三番手になっても都筑は服を脱ぐことを渋っていた。するとはた迷惑な体育会系が追い剥ぎまがいに襲いかかる。



「いい加減脱ごうぜ煉。オレたち男同士だろ?ということで脱がせてやるっ」

「ば、やめろよ!僕はもう少し後で脱ぐからいいの!」

「んなこと言ってー、実は恥ずかしいとかじゃねーの?女子みたいなこと言うなら煉ちゃんって呼んじゃうぜー?」

「ち、ちゃん付けはやめてよ!分かったから!もう脱げばいいんでしょ、脱げば!」



半ギレ状態で服をテーブルに放り出せば、仕切り越しにやんわりとお叱りの声が飛んで来た。そういえば内科検診だったと冷静になる都筑の肩に、眞壁は嬉しそうに腕を回して来る。



「へへっ。これこそが男同士の粋、裸と裸のぶつかり合いだな」



小声で囁く眞壁の体はやはり体格が良く、都筑でなくとも男子高校生は嫉妬するレベルだった。

「体育会系は黙ってろ」と言い残し、容赦なく足を踏み潰す。声なくしてピョンピョンと悶絶する眞壁に仕切り越しから声がかかった。仕切りの反対側から出て来た男子はやはり鼻血を流し頭の上にお花畑が浮かんでいる。


一輝ならどうなるんだろ…。


よろよろと仕切りの中へ入って行く背中を見送り、物凄く気になる疑問を頭に上げた。ふと後ろを振り向けば、どうやら生徒は都筑で最後のようだ。美人保険医の噂を聞き付け大半の男子が聴力視力などの診断を受けすぐに内科検診へ来たのだろう。男子とは実に単純な生き物である。



──ガラガラガラ。



誰かが保健室に入って来た。都筑達よりも乗り遅れた男子だろうか?

しかし特に気にすることもなく、都筑は後ろで服を脱ぐ気配を感じながら自分が呼び出される順番を待った。





「男子はおまえで最後だな」





どこかで聞いた小声が後ろから掛けられる。あれ?と今一度振り向けば、そこにいたのはありえもしない人物だった。











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