【22,真夜中の黒き躍動】








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ビルからビルへ跳び移るとそれに合わせるように後方から異界種の声が追って来る。数えるほどしか追いついていないのはおおかた暁斗のスピードに追い付けなかった為だろう。

長い距離を駆け回っていたせいか暁斗の息も上がっている。仕方なくその場で立ち止まると、追い付きつつある異界種に向き直った。


7体。


暗闇ではっきりとは分からないが最低でもそれだけの数が暁斗に向かって来ている。



…まずいな。



予想以上に振り切れていない。双剣に付着した塵を振り払いつつ、暁斗はようやく己のピンチを悟った。



「キィキェー!」



初めに追い付いた1体をそつなく消し去るが、残りの異界種が一斉に飛びかかる。命の危機を察し瞳の黄金が無意識に輝きを増した。力強く光る瞳は気高く、一瞬だが異界種が恐れを見せ怯む。



するといきなり視界が傾いた。



腹部に強い圧迫感も感じる。唯一視界に映る地面もまるで早送りでも見ているかのようにもの凄い速さで過ぎ去っていた。



「無茶はするなと俺は言ったはずだけど?」



司貴だ。しかもだいぶお怒りな様子。



「言った…、が………降ろせ、司貴っ」

「お仕置きです。逃げ切れるまでこのまま耐えること」



まるで荷物でも担ぐように暁斗は肩に乗せられていた。両手両足が宙ぶらりんな状態で体重を支える腹部が彼の肩に圧迫され思うように上手く喋れない。いつものように上半身を持ち上げ呼吸の危機は免れたが、無理な体勢であることに変わりはなく。言い訳を連ねるにも辛い状況だった。

いつからかは覚えていない。ただ、司貴を怒らせた時は必ずと言っていいほどこの罰が待っていた。別に高い所が嫌いな訳じゃない。が、気付いたらこれが主流だったのだ。

担ぎ上げられるのは好きじゃない。司貴の表情を背中からしか伺えないのはもちろんのこと、なにより体の動きが制限されてしまう。考えるより体が動くタイプの暁斗にとって、手持ち無沙汰で何も出来ないことが一番不安となるのである。

建物間を跳躍する際の尋常じゃない重力に耐えながら、彼に降ろされるのを待つ。昔から彼の方が脚が速かった。そして今では比べようもないくらい彼の脚は速くなっている。その一番の理由として、彼の魂が"基なる魂"の力により日に日に強化されているからだろう。

オリジナルの暁斗に追い付く勢いで彼の魂は力を増しつつある。





「……まずいな」



しばらくしてお仕置きから解放され暁斗が呼吸を整えていると彼が小さく呟いた。



「どう、した」

「あぁ、それが煉が見当たらなくて」

「都筑が!?ついて来ていなかったのか!?」

「ついて来いとは言ったんですが…」



と、そこで2人はハッとした。そういえば身体能力の増強について詳しく話をしていなかったと。

目を見合わせ、お互い同じ考えをしたのだと分かり合う。自分達以外でここに誰かを連れて来るなんて今日の今日まで一度も考えたことがなかったのだ。

説明不足があっても仕方のないこと。だが、それだけでは済まないのが今の現状況である。



「戻るぞ!」

「そうですね。なるべく早く見つけないと」



"基なる魂"を見失った異界種が取る行動はただ1つ。


目についた魂を持つものへ無差別にターゲットを変えることだ。


全速力でもと来た道を戻って行く。その帰りで先ほどの異界種達と遭遇するも、2人となった暁斗達に通用するはずがなく17体もの異界種が早々に塵となって消えた。





「都筑!」



疾走した先でビルの上に1人佇む彼を見つけ、呼びかける。いきなりのことに肩を揺らす都筑だったが、声の主が暁斗だと分かった途端その表情を緩ませた。



「先生…!」



寂しさと恐怖で不安で不安で仕方なかったのだろう。駆け寄って来る彼を暁斗はぎゅっと抱きしめると、不安を取り除くように優しく頭を撫でてやる。



「1人にするつもりはなかったんだ。…すまない」

「う、うぅ…」

「寒かっただろう…。こんなにも耳が赤くなって…」

「暁斗、それは寒さのせいじゃないかと」

「?」



じゃあなんだ、と思考を巡らせる。確かに都筑の体は温かくて、寒さで震えるには至らない。暁斗は自分の胸に顔を埋め苦しげに呻いていた都筑を解放してみた。どうやら耳だけでなく顔や首までもが真っ赤になっているようだ。



「やはり風邪を引いていたのか!」

「…暁斗はもう少し男心を学習するように」

「なんだそれは。私が男心を持っていないと言いたいのか?」

「煉、すみません1人にさせて。俺がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかったんですが」

「あ、あからさまに無視をするなっ!」



つまりは馬鹿にされたのだと悟り顔に血が集まる。

ふん、と顔を逸らせば視界の隅で都筑が笑っているのが見て取れた。どうやら不安は取り除けたようだ。不本意だが今は司貴に感謝すべきだろう。



「先生、奴らはもう全部倒したんですね!」



あれほどいた異界種が今やどこにも見当たらない。都筑がそう思うのも無理はないが、もとがあの大群だ。


暁斗の記憶が正しければ…。



「…いや、まだ30は残っているはずだ」



昼に現れるものとは比べものにならないほどの異界種が毎晩暁斗の魂を狙って来る。都筑には信じられないことかもしれないが、これが"基なる魂"を持つ暁斗の日常なのだ。



「それなら暁斗を探してそこら中をうろついてますよ。…ほら、あっちから声が聞こえる」



3人が静まると耳を立てる手間無くして耳障りな奇声が闇に響いた。

やれやれ。司貴がそう肩をすくめたのが視界の隅に確認出来る。





3人の夜はまだまだ続くのだ。










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