【21,真夜中の黒き躍動】







「都筑、私達が持つこの武器は魂が攻撃性を具現化したものだとは前に説明しているな?」

「えっと……攻撃性は人それぞれだから人によってもその形は様々、でしたよね」

「そうだ。そしてそれには続きがある」





攻撃性とはつまり、相手を斬りたい、倒したいという願望を意味する。

例えば地面に落ちているコンクリートの欠片を暁斗が斬りたいとする。するとその斬りたいと願う想いが攻撃性となって現れ、暁斗の両手には双剣が。そしてそれをコンクリートの欠片に向かって奮えばそれは見事に真っ二つとなる訳だ。

ここで注意してもらいたいのが、欠片に突き刺した剣が地面へと貫通している点である。暁斗が剣を引き抜くと、当たり前だがコンクリートの欠片は真っ二つのままだ。しかし剣が地面に貫通していた亀裂の跡はまるで幻であるかのように消え去って行く。まばたきをすればそこにはもう跡が無いのだ。

つまり暁斗達が持つこの武器は倒そうとした標的のみを攻撃する。紙を3枚に重ね、真ん中の紙だけを貫通させたいと願えば実際にその通りとなり、先ほど司貴がしたように暁斗を斬りたいと願わないまま剣を奮えば剣自身は機能しない為暁斗は斬られることなく終わるという訳だ。





「…凄い力ですね」



説明を聞き終え、都筑が感動したように締めくくる。2人の武器を交互に見ては、自分の手を見下ろす彼。



「おまえもなにか願えばおまえ自身の武器が具現化され現れるはずだ」

「……僕の、武器が…」



暗闇に目を凝らし、向かい側にある工場のガラス窓を見つめる。

あれに狙いを定めれば右手に手応えが現れた。それを握り、構えてみる。照準なんてもの都筑にはよく分からないが魂の導きにより無意識に照準がガラス窓を捉えた。

躊躇いがちに引き金を引くと信じられない速さでボウガンの矢が飛んで行く。それは盛大な音を立てることなくガラス窓を一点通過で突き破って行った。勢いが強過ぎてガラスが飛び散る隙もなかったということだ。



「煉はボウガンか。俺も暁斗も接近タイプだから心強い味方ですね」

「私は中距離もいけるぞ」

「暁斗のそれは反則に近いんじゃ」

「…ようは使いようだ」

「今少し間が空きましたね」



気のせいだ、と不自然に顔を逸らす。反則という言葉をちょっぴり気にしてしまった暁斗。だからといって剣を投げることを封じる訳にはいかない。命の駆け引きをする中、その場その時で有効な手段を使わないと自ら死に近付くも等しい為だ。

それを分かっているからこそ司貴もそれ以上つっこんでは来なかった。好青年の鏡のような苦笑を浮かべ爽やかに笑っている。苦笑混じりなのが女性にウケる最大のポイントなのかもしれない。



「あの…1ついいですか?」



なんだ?と質問の許可を下す。都筑は真剣な面もちで冷や汗なんてかいていた。きっと何か嫌なことでも考えてしまったのだろう。



「もし…もしもですよ?その人に少しだけ敵意があったら、やっぱり攻撃は…当たるんですよね」

「そうだな。おそらくただじゃ済まない」

「そっ、か…」



ギリギリのパフォーマンスで力の説明を行った司貴に思わず尊敬の眼差しを送ってしまう。都筑にそんなことをする度胸はない。もし暁斗に攻撃が当たれば、を考えると引き金に指さえ置けなくなるくらいだ。

深い信頼関係であるからこそ成せる技。あの説明前の軽いやり取りはこういう意味で交わしていたのである。



「とにかく、力の使い方はわかったな?」

「はい。これで僕も一人前の"騎士"に、」



都筑の言葉を遮るように暗闇に奇声が響いた。一斉に声のした方へ振り向けば、向かいの工場からこちらへ飛び移って来る異界種の姿。

しかもそれは単体じゃなく、10や20を超える数だ。いきなりの襲撃に戸惑う都筑を置いて暁斗と司貴は群れに向かって走り出す。



「援護だ司貴!」

「暁斗、あまり突っ込まないでくださいよ!」



鬼神の如き勢いで異界種を蹴散らして行く。常識では考えられない反射能力。機転と経験から導き出された流れるような剣筋。その場にある音を消せばまるで芸術品とでも言えるような光景だ。人間の闘争本能を掻き立てる何かがそこにはある。

その攻撃から逸れた残党は一頭残らず司貴の剣に葬られていた。暁斗に背を向ける形だが四方八方の敵に対応し、的確に剣を振る。長年の絆と信頼があるからこそ彼は暁斗との距離を一定に保ちながら戦えているのだろう。

近付き過ぎると異界種への剣筋に暁斗を巻き込んでしまい、反対に離れ過ぎると暁斗が異界種に囲まれてしまう。絶妙な距離で、かつ異界種を相手にしながら戦うには彼を"目"で確認してはいけなかった。背後から感じる気配で察し、あとは本能に従うだけ。"基なる魂"に殺意を向ける全てのものは必然と"騎士"の敵だ。考えずとも自然と体が動き、剣を奮っている。

1体、6体、20体。もの凄い勢いで消えて行く異界種を見て、都筑はこう考えていた。



僕……、いる?



と。



「数が少ない…!どこか別に奴らが現れるはずだ!」



異界種の胴体を斬り払い、その奇声に負けじと声を張り上げる。いつもはもっと数が多い。おそらくここ神界へは二部に分かれて送り込まれたはず。

暁斗の予想は正しく、もう一部隊も間を置かずして姿を現した。都筑の後方で空に界の歪みが起きている。それに彼自身は気付いていないようだ。状況はまさに挟み撃ちである。



「司貴!都筑の後ろへ回れ!」



攻撃の手は緩めずに異界種の群れからじりじりと後退する。司貴は意図を察したようで、暁斗に合わせて前進を始めた。

都筑もそれで自分の状況を知ったらしく、暁斗のもとへ自ら合流する。激しい剣筋の舞う彼の後方に立ち、横から攻めて来る異界種に向けて照準を定める。

都筑も都筑でただ呆然とこの戦いを眺めていた訳ではない。2人の位置と絶妙な距離感。そしてその陣形にあった弱点を分析し、その弱点を素早く補う。



「先生!援護します!」

「あぁ、頼んだぞ!」



暁斗が正面から敵を迎え伐ち、その残党や背後からの敵を司貴が迎え伐つ。全ての異界種は暁斗を狙い、攻撃される回数は圧倒的に暁斗が多い。

前後で配置されたその陣形にはそれにより弱点がある。異界種の集結量から見て常に暁斗が囲まれつつあることだ。

左右から迫る異界種は今まで暁斗を背後から狙う脅威となっていた。左右の敵にもなるべく気を配っているものの、前方の敵を対処しているとそこには少なからず隙が生まれてしまう。

そこで都筑という第3の存在だ。彼の武器はボウガンと機動範囲が狭く、動き回る必要もないので2人の絶妙な間に入り込める。さらには遠距離ということもあり前後2人の攻撃範囲には届かなかった異界種を伐て、なおかつ暁斗が囲まれる前に陣形の中央に迫りそうな異界種を事前に撃退出来るという利点がある。

陣形が変わり、めまぐるしく動いていた戦況は一変した。

それぞれにおける立ち位置で最大限の動きが可能となり、常に押され気味だった状況に少しの余裕まで生まれている。

左右から迫りつつある異界種が一頭一頭確実に消されて行く。司貴のように速さはないが、堅実で心強い援護だ。

一方で暁斗の援護から外れることが出来た司貴は後から現れたもう一部隊と正面衝突していた。あらかじめ暁斗達とは距離を取り、攻撃範囲の広い長剣を巧みに奮い暁斗に向かおうとする敵をなぎ払う。

もとは援護のような後方支援ではなく暁斗のように大勢の敵に斬り込んで行くのが得意の司貴。危なげなく剣を奮う姿は流石と言ってもいいだろう。





「こんな、多いなんてっ…!」





しかしそれでも隙を見た異界種が中心部に入り込み都筑や暁斗に向かって攻撃を仕掛けて来る。すぐ目の前まで迫っていた異界種を数発かけて撃ち抜き、都筑は掠れた声を漏らした。

暁斗達は毎晩のように異界種の大群と対峙しているが慣れない都筑には何もかも辛い状況だ。戦い慣れない都筑には理論では分かっていてもヒヤッとする隙があり、なにより自分に殺意が向けられることに慣れていない。

今まで一度も戦ったことがない一般人だ。それがこれほどまでに順応出来たのはむしろ流石とでも言うべきだろう。

体が理論に追いついていない。そうなりつつある都筑の様子に気付くと暁斗は目の前にまで迫っていた異界種を2体同時に消し去り、ふとその場から離れるように跳躍した。

楕円を描いて暁斗達を囲んでいた黒き群れは暁斗が跳ぶ方へと一斉に広がる。狙いは"基なる魂"。都筑や司貴には目もくれない。



「あぁやっぱりやってくれた…!」



単騎で敵を引きつけた己の主に非難の一声。あれほど突っ込むなと念を押したのにやはり聞いてくれなかったようだ。

確かにこの状況において彼の判断は間違いとは言い切れない。都筑の弱点補強は全体的に効果があった。しかし一度懐に入られてしまうと都筑自身の弱点である接近戦となってしまい、圧倒的に不利な状況に変わってしまう。

崩れた陣形を立て直すにしてもその間彼がやられてしまえば元も子もない。都筑のフォローなら自分に任せればいい。だから無茶はやめて欲しいというのが司貴の正直な心情でもあった。



「煉!暁斗を追いますよ!」

「追うって、先生あんなに速、」



都筑の言葉を最後まで聞かずしてその場から駆け、跳躍する。

隣のビルへ跳び移っては闇に消えた司貴の背に、都筑は昨日今日で最大のパニックに陥っていた。

武器の使い方ならもう完璧にマスターしている。今ならすぐにでもボウガンを発射することが出来るだろう。



…しかし、身体能力の方はまるっきり分からないまま。


ビルからビルへ試しに跳び移る勇気もなく、都筑は1人ぽつんとその場に立ち竦むしかなかった。








[ 23/36 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -