ささやく夜想曲

「走は青だよ」
ジョージがはしゃいだ声で言うのが聞こえた。このごろ自分が走という言葉にやけに敏感になっているのに清瀬は気づいていた。心地よい変化ではある。
「青はジョージの方だろ」
走も、やっと屈託ない笑みを浮かべるようになった。まだ壁が完全に取り除かれた訳ではない。角が丸くなったとでも言おうか。
しかし、一概に筒抜けがいいという訳でもない。
ゆっくり時間をかけて解していけばいい。
「そうかな」
「うん。なんか、水色とか」
「わかるわかるー。ねえ、走、俺は、」
先程から、双子が両脇で奪い合うような勢いで話しかけている。その瞳に表れているのは、羨望、だろう。
「ジョータは、オレンジかな」
「えー、馬鹿っぽくない、それ」
「そんなつもりじゃないけど」
笑顔は見せているが、双子のはしゃぎ具合に困惑もしているようだ。
そろそろ、かな。
「走が青、て言うのには賛成だな」
ば、と双子がそろってこちらを見た。それから、仔猫が威嚇しているような視線を向けてくる。
走を奪われる、とでも思っているのだろう。
「青々とした若葉の色だ」
「緑じゃないですか」
「それを青っていうのがいいんだよ」
走はいまいち理解ができていないようで、小首をかしげた。その脇でジョージが、ハイジさんおじいちゃんみたい、と笑う。
「さあ、そろそろ夕飯にしようか、」
三人を見回して言うと、双子は目をきらきらさせた。
「メニューは?」
「自分で確かめろ。ああ、あと、アオタケにいるやつらを呼んできてくれ」
はあい、と素直な返事が左右から飛んでくる。全く先ほどとはかけ離れた態度である。
駆けていく二人を、また住みかを破壊するのではないか、と微かな不安を抱きながら見送って、立ったままの走を見た。
「いこうか、」
すれ違いざまに、軽く頭を撫でる。少し歩いて振り返ると、赤い頬をした走と目が合った。
その意味は、まだ知らないふりをしておこう。
意地悪な自分に、胸のなかで苦笑しながら、清瀬はもう一度愛しい人を呼んだ。




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