舌先が爛れるような

走は公園の水道で水を飲んでいた。そのためについている、上向いた蛇口ではなく、小学校の長い流しに並んでいるような、スタンダードなものだ。
わざとらしく喉を鳴らしながら、大して冷たくもない水をがぶがぶと飲む。塩素の臭いが鼻につく。
今日は取り立てて暑い日だった。飲みきれない水道水と、額や頬からつたう汗が、口の端から滴り落ちていく。
こまめに少量ずつ補給出来るように、スポーツドリンクのボトルは持っていた。しかし今、それはベンチの上だ。
一度に大量の水を飲むのは良くない。そんなことは当然わかっていた。
体を支えるように右手をおいていたバルブをひねって、水を止める。きゅ、と細い鳴き声をあげて、蛇口はしとしと、と雫をおとした。
暑い。熱い。あつさというあつさが、一挙に押し寄せてくる。
口許をぬぐって濡れた手で、今度は額の汗を拭く。
走ろう。今日の自分はどうかしている。
踏み出そうとした走の腕が、強く引かれた。
蒸されるような外気とも、焦がされるような夏陽とも違う熱が、唇に触れる。後頭部を掴む手のひらも、上顎をなぞる舌も、熱い。
満たされなかったところに、それは急速になだれ込んでくる。
こんな夏の昼間に似つかわしくない、食あたりを起こしそうなほどにしつこいキスのあと、ぼう、と虚ろな意識のなか、走は小さく息を吐いてつぶやいた。
「いつから見てたんですか、」
「さあ」
爽やかな笑みをふ、と浮かべて、清瀬は走り出す。
掴んでいたのが走のスポーツドリンクだったと気づくのは、ずっと先のことだった。


title by コペルニクス的転回




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