晴天のキャンバス

灰走

「こんな晴れた日は、出掛けたくならないか」
憂鬱な天気が続く冬のあいだの、珍しく空の晴れ渡る日だった。ほの暖かい陽気は、ゆっくりと、しかし確実に近づく春の訪れを予感させる。
清瀬の言葉に走は初め首をかしげた。出掛ける、という言葉が珍しかったからだ。
練習や競技会の他には、夕飯の買い出しくらいしか外出しない走には、単純に外出する、ということが新鮮だった。
なによりも、天気がよい日は走りたい、というのが走の常である。すみわたる空気を肺いっぱいに吸って、乾いた地面を踏みしめるのを想像するだけで、全身が走ることへの欲求に充ちていく。
「走は走る方がいいんだろう」
清瀬は、苦笑して言った。
先回りして言われてしまったために、次に口にする言葉が思いつかない。ただこっくり、とうなずいた走の頭を、清瀬はくしゃ、と撫でた。
「デートに誘ってるんだけどな」
わざとらしく残念そうな声が降ってきて、見上げると、今度は溶け出しそうなほどに甘い笑顔が走を見ていた。予想もしないその言葉に、走は口をぱくぱく、と開閉するだけになってしまう。
「でも行きたくないなら」
「、きます」
被せるようにすぐに、しかしぼそ、と小さくつぶやいたのを清瀬は聞き逃さず、満足そうな顔をした。
「じゃあ、十一時に玄関の前で」
額に柔らかくて熱いものがふ、と触れて、余韻を残すようにすう、と離れていく。そこに右手をあてて、部屋を出ていく清瀬の背中を見つめながら、そういえば来ていく服がないなあ、とぼんやり考えた。



title by 潤み色

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