チョコロール


「アクタベさんって、耳が尖ってても、違和感ないよね」
 ニッコリ、と形容しそうな笑顔で言うnameに、アクタベは思わず顔を顰めた。
「あ?」
 「は」ではなく低く荒げた声で言ったアクタベは、眉を顰めたままnameを見やる。ジロリと睨むアクタベに構うことなく、にやにやと笑ったnameは話を続けた。
「だって、違和感ないもん」
 アクタベが思わず伸ばした手に構うことなく、nameはにやにやと笑ったまま、話を続ける。アクタベは話を続けるnameに構うことなく、グググとnameの頬を抓り続ける。
「悪魔って耳が尖ってるでしょ? なのにアクタベさん、優しいとこ……い。い、いだい……」
「そうか」
 アクタベはnameの痛覚のみにだけ相槌を打ちながら、指に力を込める。一目見て餅のようにふっくらしている頬は、案外その見た目に反して、固い。
 餅のように伸びないnameの頬を見ながら、アクタベは指に力を込める。頬を抓られているnameは目尻から小さなボタンのように涙を浮かべながら、アクタベに言った。
「い、いだ、いだい、いだ……」
「そうか」
「ちょ、ま」
「そうか」
 待ってくれ、やめてくれと頼むnameの訴えを無視して、アクタベはただ、nameの痛覚のみにだけ反応する。
 アクタベの指に抓られたnameの頬が、スルリとアクタベの指から抜ける。アクタベは力を込めすぎた指を見るものの、特に自身の指に違和感はない。グググとアクタベに頬を捻じられながら抓られたnameは、涙目で抓られた方の頬を押さえる。(取れるかも)とnameは抓られた自身の頬に対して思った。
「もう。落ちたらどうするの?!」
「あぁ。よく言うな。『ほっぺが落ちるほどおいしい』」
「そうじゃなくて!」
 息を巻いて声を荒げるnameを他人事のように見ながら、アクタベは話を聞き続ける。
「食べ物のことじゃなくて、抓られたほっぺたが痛いってことなの! もう! ……いたい」
 まるで見せつけるかのように頬を擦り、痛みの訴えを零すnameに対して、アクタベは冷たい視線を向ける。全く相手にするつもりも見せないアクタベに対して、nameはギッと睨む。それをアクタベはただ、冷淡な目で見続ける。
「……酷い。ちょっとくらい、気にしてくれたっていいじゃん! キーッ!」
「あー、そう。はいはい、そうそう」
「もう! その棒読み加減! 素敵!!」
「オレはお前の思考回路が分からないんだが」
 胸に飛びついて叩くnameの頭を押さえながら適当に相槌を打ったアクタベは、豹変したnameの態度に呆れた視線をやる。
 脱力した様子を見せるアクタベにnameは更にはしゃぎ、アクタベはそんなnameの様子に難しそうな顔をする。
(一体、コイツはなにがしたかったんだ?)と言う疑問が、アクタベの胸の中を通り過ぎた。
 nameはグイッとアクタベの腕を掴む。アクタベは腕を引っ張られたまま、体を少し動かす。
 手をポケットに突っ込まれたアクタベの肩が、小さく後ろへ下がり、アクタベの足がその場に踏みとどまる。だが、nameはそれを無視して、アクタベを引っ張る。体を後ろへ仰け反らせるアクタベは、nameを呆れた目で見ていた。
「そう言えば、さっきケーキを買ってきたんだよ! あ、大丈夫! ちゃんと毒味して、ないことを確認したから!!」
「……喰ったんだろ、一個丸ごと」
「……そう言わず! ささ、食べよ!」
 そう言って腕を引っ張るnameへ、アクタベはまた呆れた視線を投げる。よく見れば、nameの口の横にクリームがついていた。(オレのシャツに、それがついているのではないか)とアクタベは一瞬不安になった。
 スーツの襟元やシャツを気にするアクタベに構わず、nameはぐいぐいとアクタベをケーキのあるテーブルへ引っ張る。nameの足が、床のタイルとタイルの隙間に小突く。だが、どうにか体勢を持ち直して、アクタベの腕を自分の行きたい方へ引っ張る。
 頑なにケーキの方へ向かわせようとするnameへ、アクタベは呆れた視線を向ける。(どんなに言っても、何も聞かなさそうだ)と思わせるほどの行動力を見せるnameにアクタベは諦めをつけたあと、グイッと腕を引っ張る。
 アクタベの腕を掴むnameの体が、軽くよろめく。掴まれた腕を自分の方へ引き寄せたアクタベは、冷めた目で自分の方へ体を崩すnameの動きを見る。
 前方へ引っ張られて足を縺れさせられたnameは、やじろべえのように崩された体勢を元に戻そうとした。
 軸足となるnameの足が強張る。前方へ傾かれた重心を後方へ戻そうとする一瞬の隙をついて、アクタベはnameの腕を引っ張った。
 アクタベの腕を掴むnameの手が掴まれ、腕を伸ばされる。
 肩が脱臼しそうな痛みに、nameは「いた」と声を上げた。だが、アクタベはそれを無視して、nameの顔を掴んで言った。
「いらん」
 nameの顔が歪む。
「代わりにお前が食べろ。オレは、それじゃない方を食べる」
 アクタベの目が狂気に細められる。悲しそうに顔を歪めるnameの目尻から大粒の涙が落とされる前に、アクタベはnameの黒い茂みへ手を伸ばした。



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