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今日の私はご機嫌だ。


授業では一回も当たらなかったし、限定100個の特製プリンを手に入れられたし、今日の放課後は待ち望んでいた新作ロールケーキを食べに行く予定だからだ。
自分でも驚くぐらい幸運づくめだった。だからこれはその代償ですか?神様


「今すぐ、宍戸さんと別れていただけませんか?!!」


急に現れたこの大男をどうしろと言うんですか?
あれか、浮かれて廊下をスキップしていた私が悪いのか!
この大男はさっきから私を上から凄い威圧感で見てくる。
正直怖い、とっても怖い。冷や汗だらだらもんですよ。
ってか今宍戸さんって言った?なんだろ、部活の後輩とかかな?


「おっ俺、知ってるんですよ!!」
「はい…」
「……。」
「……。」


何をだよ!!!
主語が抜けてますよ大男さん!
数分前からこの会話を続けているから正直疲れてきた。
最初はケンカ売ってきてるのかと思えばそうでもなさそうだし、告白は…まぁ普通に考えてありえない。
話しを進めたくて時折目配せをして続きを促してみてもビクッと肩を揺らすだけで何も言わない。
変な子に絡まれたものだ。
もう行ってもいいかな、教室に宍戸くんと桃矢を待たせてるんだ。
ついでに特製プリンも私を待ってるんだ。
スプーンさえ貰い忘れなければ大男さんに絡まれることも無かっただろうに…


「宍戸さんは俺の尊敬する人です。だから、貴方のしていることは許せません!!」
「はぁ…」


私が何をしたと言うんだろう…
基本宍戸くんには優しくしているつもりなんだけど、気づかないうちになにかしてしまったのかもしれない。
で、それをこの大男さんは知っているとーー


「(どうしよ、何しちゃったんだろう…)」


冷や汗ものだ。宍戸くんとはこれからも仲良くしてほしいのに


「……。」
「……。」


またシーンと場が静まってしまった。
今度は私も気まずいために目を伏せているから空気が重たい


「お前ら何してんだ?」
「「宍戸くん/さん!!」」


さっすが宍戸くん!いいところに来てくれた!!


「久世が遅いから様子を見に来たんだけど…長太郎と仲良かったんだな」


この重い空気にいる私たちをどうやってみたら仲よさそうに見えるんだろうか。
駄目だ、宍戸くん呑気すぎる。爽やかに笑ってないで助けてほしいです…。


「この子とは初対面だよ、ね?」
「……。」

シーン・・・


宍戸くんが来てもだんまりですかJ
俯いている顔も一向に上げようとしてくれない。
流石に後輩の様子が可笑しいと思ったのか、宍戸くんが声をかけるとやっとその子は顔を上げた。


「しっ宍戸さん!今すぐこの人とは別れたほうがいいです!!」
「「はぁ?」」


あっ、ハモっちゃった。
それよりも聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。


「宍戸さんを弄ぶ人なんて駄目ですよ!今だってなんか怖いですし…!それにいjgりおjらいrgじょ!!」


大男さんはもう半狂乱状態だ。
必死に何かを言おうとして言葉になってない彼を私たちはおろおろと見守るしかない。


「だから俺がなんとかしようと思ったのに、宍戸さんが来るなんて…!うっうぅぅぅぅぅぅ」
「しっ宍戸くん!どうしよ!この子泣きそう!!」
「落ち着け、長太郎!な?」


廊下のど真ん中でわたわたする私たちを周りは遠巻きに見ている。
「修羅場…」と誰かがボソッっと言ったのが聞こえた、これでまた変な噂が立ってしまう。
今度は私が泣きそう…
宍戸くんが半狂乱状態が移りそうなことに気づいて、私たちを空き教室へと引っ張ってくれた。
教室に入ったころには大男さんも私もすっかり落ち着いて、私たちはやっと本題に入った。


「で、長太郎は何の話をしてたんだよ」
「グスッ、向日さんから宍戸さんの彼女の話を聞いて、俺どういう人か気になったんで聞いて回ったんです。そうしたら、久世さんはおっ男の人を手のひらで転がす女王様みたいな人だって…」
「(また変な噂が…J)」


下級生にまで覚えのない悪評が広がっていると思うと結構ショックだ。


「俺宍戸さんのことは本当に尊敬してて、だから許せなかったんです。でも宍戸さんは
本気で好きらしいから傷つくことになるかもしれない。それで俺がこっそり別れてくれるように説得しようと思って…。なのに宍戸さんが急に来るから、困惑しちゃって…」


そう言うや否や大男さんはまた目に涙を潤ませる。


「宍戸さんは騙されてるんですよーーーー!!!!」


うわぁぁぁぁんと泣きだしてしまった大男さんを後目に私たちは困ったように顔を見合わせた。
どこから誤解を解けばいいのか…
全てが間違えすぎてどう説明すればいいのか分からない。
どうしようかと頭を捻っていると隣にいた宍戸くんが溜息を吐いて彼の名前を呼んだ。
それに怒られると思ったのか肩をビクっと震わせる大男くん。


「全部お前の勘違いだぜ、久世とは本当に友達なんだ」


うわ〜、友達とか改めて言われると照れる。
なんて場違いなことを考えてると、大男くんからへ?間抜けな声が出た。


「確かに弁当くれたのは久世だけど、あれは教科書貸してくれたお礼にくれたもので彼女だからじゃねーよ」


私がこの前あげた弁当でこんな騒動を起こしてしまったのか…
なんかこの子にも宍戸くんにも申し訳ないことしてしまったな


「それに、長太郎の言う噂ってのは全部嘘だぜ」


誤解されやすいんだよなって宍戸くんが言うと、大男さんは驚いた顔のまま固まっていた。
勘違いだって分かってもらえただろうか


「でっでも、実際男の人に手をあげるところを見たって人も…!」
「桃矢…幼馴染が馬鹿すぎて手が出ちゃうんだよね」
「俺凄い睨まれましたし!」
「目つき悪くてすみません…」
「だから言っただろ?全部勝手に誤解されてるだけなんだって」


大男さんは私と宍戸くんの顔を交互に見るとあっという間にその顔を真っ青にした。


「すみませんでしたぁぁぁぁぁ!」


頭を擦り付けるように土下座されてしまい、戸惑ってしまう。


「俺、凄い勘違いをしたうえ、久世さんに酷いことを…!!」


元はといえば私のお弁当なんかが原因で勘違いしちゃっただけで、そんなに謝ってもらう義理は無い。
頭を上げてほしくてなんどもそう言うと、やっと大男さんは渋々上げてくれた。


「勘違いなんて誰にだってあるし、気にしないで」
「でも、俺…」


大男さんは思ったより気にしてるみたいだ。
慣れてることだし、別にいいんだけどな


「えっと、じゃあ一緒にケーキでも食べに行かない?」


桃矢と行くつもりだったけど、仲直りの印に大男さんと行くのもいいだろう。


「それで、チャラってことじゃあ駄目かな?」
「いっ行きます!行かせてください!!」
「(おぉ、しっぽが見える)」

どうやら大男さんは犬属性の人みたいだ。
ふりふりと激しく揺れるしっぽが見える。


「俺、2年の鳳長太郎です!よろしくおねがいします久世さん」


この前の日吉くんといい、鳳くんといい、最近の後輩は可愛い子が多いですね。
ほっこりと癒される。


「今日のお詫びに何十本でも奢ります!!」
「いや、そんなには入らないかな;;」


精々3本が限界だろう。
そんなことを考えながら、鳳くんと教室を出た。
後輩に好かれるのは気分がいいものだ。


「やっべ、宍戸くん忘れてきたJ」




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