7


宍戸に彼女ができた。


跡部には好きな人ができた。


青春してんなーと思う反面、どこか置いてけぼりにされた感じがする。
今までずっと一緒に頑張ってきた仲間が離れ離れになる感じ。
寂しいなって無意識に思ってしまう。


こんなこと誰にも言えないな…


「向日〜物思いに耽ってるところ悪いが、今授業中だぞ」
「えっ!?」


窓を見ながらそんなこと考えてたら、先生に注意を受けてようやく授業中だと思いだす。
驚いてがたっと机を鳴らした俺を見てクラス中は笑いに包まれた。
くそくそ、恥ずかしいっての!!
まだくすくすと笑い声が聞こえる中、俺はごまかすために黒板に目を向けた。
慣れないことを考えるとろくな事がない。


「おっ、もうこんな時間か…じゃあ今日はここまでな。物思いに耽ってた向日くんは先生のところに来なさーい」
「ははっまた向日だ!」


授業終了間近でまたクラスメイトに笑われた。
なんか今日は厄日だな……。
チャイムが鳴ったと同時に先生のところに行くと、先生は手のひらをすっと出した。


「なんすか?」
「課題!まだ出してないのお前だけだぞ」
「やっべ、忘れてた!」
「あーだと思ったよ。放課後職員室な。」


そう言って先生はさっさと教室を出た。
ちなみに今の授業は数学、俺の苦手な授業だ。
追加課題なんて出されたら溜まったもんじゃない。
これは本格的な厄日だ。
取り敢えず今は跡部に上手く部活に遅れることを伝えなくてはいけない。



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時間はあっという間に過ぎて、放課後。
先生に呼ばれてるからーなんて跡部に上手いこと言って、怒られることは免れた。
今日は何時に帰れるかなと思いながら職員室に行くと、ちょうど先生と目が合う。


「おう、向日。こっちだ」
「せんせ〜…課題なら早くやろうぜ」


自然とテンションが下がっていく。
くそくそ、今頃部活だったのによ。


「喜べ向日!今日は課題じゃないぞ」
「じゃあ何すんの?」
「まぁ待てって、もう一人来るから…あっ、久世」
「はっ、久世?!」


先生の声で後ろを振り向くと、あの噂の久世がいた。
噂で聞く通り、少し吊り上がった目は怖い印象を与える。
俺がじっと顔を見てると久世はその目で俺を睨んできてちょっとビビった。


「さて、揃ったところでお前らに罰を与える!」


ごくっと喉を鳴らすと先生はニヤッと意地悪い顔を見せた。


「お前ら、職員室前で正座な」
「ハァ!?」


冗談じゃない、こんな時期に廊下にいたら寒くて仕方がない。
それに職員室前と言ったら、生徒たちも多く通る、また良い笑い者になるのがオチだ。


「久世はともかく向日は数学苦手だろ?課題出すのは可哀想だと思った俺からの優し
い罰だ。ありがたく思えよ」


「1時間したら帰っていいから」と言われて廊下に閉め出された。


「クソクソ、まじふざけんなっての…」


俺が悪態をついている間に久世は大人しく正座を始めたので仕方無しに俺も座ることにした。


「(空気が重い……)」


二人の間に会話はまったくない、というより久世はまったくこっちを見ない。
それに思ったより生徒が通らず、静かな廊下で無表情な久世と二人きりは現代っ子には辛い。


「こっこんなこと面倒だよな〜…」
「そうだね」
「俺早く部活に行きたいんだよ」
「そうなんだ」
「……。」
「……。」
「(続かねぇーーー!!!)」


気まずいのは嫌だからと話しを振っても久世は興味無さげに返答をするだけだった。
何か話題がないかと、小さい頭ながら考えているとふとある話題を見つけた。


「なぁ、噂って本当なのか?」
「はぁ?」
「(こっこえーー!!J)」


好奇心から聞いてみると地雷だったのか眉間に皺が寄った。


「いっいや、最近俺の周りがそういう雰囲気でさ、ちょっと気になっただけだって」
「えっ?そういう雰囲気?」
「おっおう、なんか恋愛一色!みたいな…」


慌てて話すと寄っていた皺がすっと直って、不思議そうな顔になった


「ちょっ、ちょっと待って!なんの噂聞いたの?」
「秋川と付き合ってるって…」
「??」
「小学生の時大恋愛して、今はもう婚約間近だって…」
「………ぷっ、ははははは!!」


怒った顔をしたと思ったら急に笑うから俺はびっくりして仰け反る。


「ごめん、勘違いしてた。てっきりいつものような奴らだと…」
「いつものような?」
「あぁ気にしないで、それで噂だけどね、あれ全部嘘だから」
「嘘?」
「桃矢とは幼馴染なだけ。ずっと一緒にいるから勘違いされるんだよね」


さっきまでとは打って変わってへらへらと笑っていて雰囲気がガラリと変わった。
なんていうか親しみやすくなった


「なに?なんか顔に付いてる?」
「さっきまでずっと怒ってたみたいだから、なんか俺悪いことしたのかと」
「…桃矢との噂もよくあるんだけど、他にも色々噂があってさ。そういうのでよく絡まれるから警戒してた、ごめんね」


そう言って久世が悲しそうに笑うからいたたまれない気持ちになった。
きっと他の噂っていうのはあんまり良くない噂なんだと思う。


「人の噂なんてすぐに消えるから気にすんな!!…いって」


ばっと立ち上がると正座をしていたせいで足が痺れてふらつく。


「いってててて…!」
「君は真っ直ぐで面白いね」
「へっ!?うわっ」


ふらついたまま言われたことに驚いてドサッと尻もちをついてしまう。
それを見てまた笑われるから凄く恥ずかしい。


「クソクソ、そんなに笑うなよ!!///」
「ごめん、ごめん」
「それになんだよ君ってさ」
「いやだって私名前知らないし…」
「ハァ!?知らねぇの、俺の名前!!」


女子としてありえなさすぎ、テニス部って言ったら校内で一番有名な部活なのに。
跡部のおかげもあって、レギュラーはその中でも目立つ存在だ。


「うっうん…有名人なの?」
「お前珍しいな」


真顔でそう言うと、久世はまた可笑しそうに笑う。


「それ、前にも言われた」
「向日岳人、覚えとけよ」
「向日くんね、分かった。私は久世霜月、よろしく」


そっからは正座だということも忘れて、和気あいあいと話せた。


「おい、お前ら罰だってこと忘れてないか?」
「あ、先生」
「随分仲良くなったみたいで、いや〜青春だね〜(ニヤニヤ」
「そっそんなんじゃねぇよ!!///」
「まぁ、お前らの青春は今度聞くとして…向日、そろそろ部活行っていいぞ」


先生に言われて1時間も経っていたことに気づく。
話すのが楽しくて時間が早く感じた。


「やっべ、もうこんな時間!じゃあな、久世!また話そうぜ」
「うん、また…」


正座で痺れた足を懸命に動かして部室に向かう。


「(意外と良い奴だったな…)」


走りながらそんなことを思う。
今度会ったら、俺の不安を聞いてもらおうか、久世だったら不安を取り除くぐらい簡単にしてくれそうだ。



夕日で赤く染まった廊下はいつもより輝いて見えた。




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