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幼いころに地獄を味わった。




苦しくて、辛くて、泣き叫んだ日々は今でも忘れない。




だから全てを壊そうと思った。




世界をリセットして憎きマフィアを潰そうとした。




なのになぜ僕は今マフィアに所属しているんだろう。




甘くなっていく自分に苛立ちを覚える。






「沢田綱吉。この前の仕事の報告書です。」

「ありがとう、お疲れ様。」

目の前で胡散臭く笑うのはボンゴレ10代目沢田綱吉。
10年前、僕の計画を踏みつぶしたあげく、僕をマフィア…しかも幹部にした張本人。

彼はここ数年で随分ボスとして成長した。

「それでは僕はもう行きます。しばらくゆっくりしたいので仕事は回さないで下さい。」

「あっ、骸!!」

「…なんですか?僕は一刻も早くここを出たいんですが」

「そろそろ本部に住まない?いつまでもホテルだと不便でしょ?」

…またこの話だ。
この前山本武も全く同じことを言っていた。

「クフフフ、沢田綱吉。何か勘違いをしていませんか?僕は君たちに協力はしてますが、それはあくまで君の体を乗っとるため…馴れ合うつもりはありません」

「でも…「失礼します」

まだ何か言いたげだった沢田綱吉を無視して僕は部屋を出た。

「(あぁ、いらいらする…!!)」

自然と廊下を歩く足が速くなる。
僕を仲間として扱う沢田綱吉もその部下も気にいらない。
なにより…それを受け入れてしまっている僕が一番気にいらない。
あんなに憎んでたはずなのに、いつのまにかボンゴレにいることが当たり前になってきている。

分かってはいるけど、それを認めたくないからいつも逃げるように本部を後にしている。

「(少し気分転換をした方がいいかもしれませんね…)」

重たくなってきた頭を切り替える為に、ホテルに向けていた足を街の方へ向けた。


街に出て来たのは失敗だったかもしれない…。
不安定な気持ちだと人ごみは鬱陶しく感るだけだった。

「(いっそ、ここにいる人達を全員殺してしまいましょうか…)」

そうしたらまた復讐者に捕まえてもらえるかもしれない。

あんなに出たかった牢獄も今では心地良い場所に感じる。
それぐらいボンゴレにいる自分が嫌いになっていた。
一度そう考えてみると本当に戻りたくなってくる。

もうやってしまおうと手始めに傍にいた子供に手を伸ばした。






………そしてすぐに後悔した。


「ビエエエエエェェェェェン!!!!」

「いい加減泣きやんでもらえませんか…?」

復讐者とか皆殺しとか痛いことを考えてた数分前の自分をブン殴りたい。
こんな面倒ごとに巻き込まれるとは思わなかった。

「ヒッグ…グスッ!ウエエエェェェェン!!」

「ほら、もうすぐ君の家に着きますよ」

手を伸ばした子供は迷子だった。。
街に来たところはぐれてしまったらしく、そこに僕が声をかけてしまった。
それからはもう泣き喚くは、家に連れていけと言うのだから僕は完全に殺る気が萎えてしまった。

「それにしても、こんなに森の奥に家を建てるなんて君の両親はよっぽど変わり者みたいですね。」

街からそう遠くない森に住むくらいなら街に住んだほうが便利だろう。
そう思っていると子供は僕の手をぎゅっと掴んだ。

「ヒック…僕、パパもママもいない…」

そうか、孤児だったのか…。
妙な親近感が湧いてくる。
自分と同じだと思うと嫌いな子供も可愛く思えてきた。

「僕も両親がいないんです。」

「お兄ちゃんも?」

「えぇ、一緒ですね」

そう言えば安心したのか、嬉しいのか、泣き腫らした顔でやっと笑顔になった。

「お兄ちゃん!ここが僕のおうちだよ!」

そこにあったのは小さな一件家と見渡す限りの草原だった。
今まで薄暗い森にいたのが嘘みたいにその空間だけは輝いていた。
広い草原と青空が綺麗すぎて眩しいとさえ思った。
あまりにも眩しすぎて俯くと子供は僕の手を引っ張っていく。

「お兄ちゃんもパパとママがいないならここに住めばいいよ。僕が先生に言ってあげる!」

「いや、僕は…」

僕の制止の言葉も聞かないで子供は草原にいた一人の女性に呼びかけた。






Irritazione〜苛立ち〜
(ファミリーの優しさが僕を苦しめる)

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