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潮の匂い。




波の音。




薄暗い空。




強い風。





目の前には……






ゆっくりと落ちていく彼女の姿。





「お願い…信じて…!!」





彼女が最期に言い残した言葉が耳に纏わりつく。










「ハッ!!…ハァッ…ハァ、ハァ…夢…か…。」

小鳥が囀るような爽やかな朝。
そんな日に似つかわしくない程汗をかいて飛び起きた俺は、痛む頭をそのままに膝に顔を埋める。


俺がボスになって6年…彼女が死んでから10年が経った。


10年前の冬。
仲間を守るためにボスになることを決意した俺は守るべき仲間をこの手で殺した。
何の罪をない彼女を…。

俺たちが過ちに気付いた時、彼女は既に海の底。

悔やんでも、嘆いても、もう戻って来ない。

まだ子供だった彼女はきっとやりたい事が沢山あったはずだ。
笑って、泣いて、怒って、喜んで、哀しんで、勉強して、運動して、恋をして…まだまだ人生を歩んでいけたのに!!!
俺たちが…俺が、彼女の全てを奪ってしまった。

罪の意識で胸が一杯になる。

埋めている顔に暖かいものがゆっくりとつたう。
10年間で声を押し殺して泣くのが日課になった。
彼女があの暗くて冷たい海にいると思うと涙が止まらなかった。

≪コンコン≫

「ボス、朝食のお時間です。」

「あぁ、今行く。」

メイドの規則的な挨拶が聞こえたら泣くのはお終い。


俺は感情を押し殺して『ボンゴレ]世』になる。


「おはようございます!10代目!!」

「ちっす!ツナ。」

「おはよう、隼人、山本。」

広間に入った俺を迎えてくれたのは大切な共犯者。
隼人と山本もまた罪の意識に苦しんでいる。


指定された席に着くと、随分空席が目立つ。
広い広間には使用人の他に俺たち3人しかいない。

「他の皆は?」

「アホ牛ならボヴィーノに行っています。芝生頭は長期任務ですし…。」

「雲雀はいつもの事だしな…骸とクロームも滅多にここには来ねぇから、後は小僧だけだぜ。」

「じゃあ、リボーンが来るまで待っていようか。」

俺の元家庭教師であるリボーンは朝に弱い。
起きるまでもう少し時間がかかりそうだ。

「しかしあいつら、10代目が決めたことに従わないとは、守護者の自覚が無ぇのか!!」

俺がボスになって何個か決めた事がある。
その中の一つが"食事は皆で(任務の場合は除く)"。
ファミリーとはその名の通り家族だから、団結力を固める為にも食事は皆で摂ったほうがいいと思って提案したんだけど、今まで全員が揃うことはなかった。

「今更食事のことをどういうつもりはないけど、骸達はせめて本部にはいてほしいんだよね。」

復讐者から巧みに脱出したと思ったら、クロームを連れて居場所を転々えおしているらしい霧の守護者。
一応、緊急事態の時は来てくれるし、任務も問題なくやってくれるから今まで困ったことは無かった。
でも本部にいてくれた方が都合がいいのも事実だ。

「ツナ、俺が今度の任務のときに骸に言っといてやるよ。」

「うん、頼んだよ。山本。」

「ボス、リボーン様が本日は朝食がいらないと申しておりますが…。」

メイドの一人が俺に向かって言う。

「はぁ…こんだけ待たしといていらないって…。」

10年経っても変わらない自由な家庭教師様だ。

「たしか昼から任務だった筈だから、軽食ぐらい持っていってあげて。」

「かしこまりました。」

ついでに下がっていいよと言うと、丁寧にお辞儀をし使用人を引き連れて、広間を出ていった。

「リボーンさん相変わらず朝が苦手なんですね。」

苦笑気味に微笑む隼人を横目に俺は豪勢な朝食に手をつけた。
仕事の話をしつつ、雑談をしながら食べていて、広間には和やかな雰囲気が漂った。

隼人も山本も楽しそうに笑っている。
傍から見れば、幸せそうな光景だろう。
でも俺はこの時間を幸せだと感じれなかった。







ねぇ、幟歩。




君から笑顔を奪ってしまった俺が、幸せになる権利なんて無いよね?




あれから10年。




俺はもう心の底から笑うことが出来なくなっていた。







Il mio crimine〜俺の罪〜
(罪悪感にかられながらもみっともなく生きてる)

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