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「違う!私じゃない!!私は何も知らないの!!」

波の音が後ろから聞こえる。
少し足を動かせば、今にも落ちてしまいそうな崖に私は追い込まれていた。



………かつての仲間達によって。


「"  "が悪いんだよ。俺たちの仲を壊そうとするから…。」

悲しそうに、でも殺意を込めた目で私を見る。
あまりの恐さに足が竦みそうになりながらも、必死に否定の言葉を並べてみても、もう彼等には一言も届いてなかった。

「お願い…信じて…。」

「もうお前のことなんか信じねぇよ!!」

「獄寺君、落ち着いて。」

「10代目…。」

感情が高ぶっている獄寺君をたった片手で制してしまっている彼は、既にボスとしての貫禄に溢れていた。
カツン、カツンと靴音を鳴らして私の前に立つと、狂気に塗れた笑顔を浮かべ、肩に手を置かれた。




「俺は皆を傷つける奴は許さない。絶対に!だから……死んで"  "」





ハニーブラウンの髪が目の前に揺れると私の体はゆっくりと後ろに倒れていった。




最後に見たのは、今にも雨が降りそうなぐらい真っ黒な空と…蔑むような彼等の目だった。










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せんせぇ…せんせ

「んっ…。」

「先生ってば!!!」

「わっ!…あれ、私…。」

耳元で大きな声を出されて私は飛び起きた。
どうやら、いつのまにか眠ってしまったらしい。

「先生、大丈夫?なんか苦しそうだったよぉ?」

私を取り囲むように立っている子供たちが心配そうに見上げてくる。

「大丈夫よ。少し悪い夢を見ちゃっただけだから。」

純粋に心配してくれている子供たちの気持ちが嬉しくて、少し微笑んで頭を撫でてあげれば安心したのか、また野原へと駆けていった。

「幟歩、また昔の夢か?」

「…えぇ、久々に見ちゃったわ。」

綺麗な白い毛をたなびかせ、私の傍まで来たこの狼は白夜(ハクヤ)。
裏社会の人間のせいで、喋ることを身に着けてしまい、群れを外された憐れな狼。
でも、私のただ一人の親友だ。

白夜は慰めるように私の手を舐めると、真っ直ぐ私を見て言った。

「いい加減忘れろ。あいつらはもうお前の傍にいないんだ。」

「そうね…でも、なかなか忘れられないわ。」

髪を掬い上げるように広い草原に柔らかな風が吹く。
黄色のボールを持って、思い思いに楽しそうに遊ぶ子供たちとは対照的に私は暗い気持ちでいた。





今から10年前、私には大切な友達がいた。
きっかけは親友であった京子ちゃんの紹介だった。

喧嘩っ早くて10代目命だった獄寺君。

天然で運動神経抜群だった山本君。

可愛い顔でとても大人な思考だったリボーン君。

そして………







いつでも優しくて大好きだったツナ君。



私の周りには暖かい人が一杯いた。
幼いころに両親を亡くして一人だった私には皆といる空間が心地良くて好きだった。
ツナ君たちがマフィアだと知って最初は驚いたけど、嫌いにはならなかった。

それぐらい私にとって彼らはとても大切だったんだ。




でも、ある日心地よい空間はあっという間に崩れた。


いつの間にか京子ちゃんたちに怪我が増えた。
本人も覚えてないような傷が沢山出来るようになって、リボーン君は敵対しているマフィアかもしれないと言った。
ツナ君たちは必死に探したけど見つからなくて、私はずっと怯える京子ちゃんを慰めてた。


しばらくするとツナ君たちもケガをするようになり、私だけが無傷だった。
心身共に追い詰められてた彼らは私が犯人だと疑うようになった。
このままでは危険だと判断した彼らは私を海に呼び出し、







突き落とした。





私は溺れかけてたのを駆けつけた白夜に助けられ、なんとか生きていた。
でも、この事が原因で私は足に一生消えない傷を負い、歩くどころか立つことも一人では難しくなってしまった。
生活することが困難になり、家に帰るわけにもいかなくなった私は絶望するしかなかった。


そんなある日、たまたま旅行で日本に来ていたお婆さんに私は拾われ、イタリアの孤児院でお世話になることになった。
最初は居心地が悪かったけど、みんながとても優しくしてくれて、私は孤児院が大好きになった。

お婆さんが亡くなった今、私がここを受け継いでいる。


子供たちと過ごす毎日はとても大切な時間で、今の私はとても幸せだ。








でも、今でもツナ君たちにつけられた深い傷を忘れることは出来なかった。







Un evento passato〜過去の出来事〜
(私には忘れることのできないこと)

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