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「はい、頼まれてた花ね」
「いつもありがとう、メーテル」


両手いっぱいの白いエリゲロン、顔を近づければいい匂いがする
街で花屋を営んでいるメーテルは私がこっちに来てから初めて出来た友達だ。
月に何度か孤児院まで花を届けてくれる。


「こんなにいっぱい山の中まで大変でしょう?」
「いいのよ、散歩ついでにちょうどいいわ」


出したケーキを手づかみでぺロりと食べてしまう。
彼女のその豪快なところが私は大好きだった。
くすりと笑って私も紅茶に手を付けると、もう何個目かのお菓子を食べたメーテルが口の端にクリームをつけたまま思いだしたように話しだした。


「そういえば、聞いた?街の方で最近誘拐事件が多いらしいわよ」
「誘拐?」
「なんでもボンゴレのシマを荒らすのが目的でマフィアが乗り込んできたって…」
「マフィアが…」


歴史あるボンゴレファミリー
イタリアの中でも一番の勢力を誇るそのマフィアは、自警団のような役割をしていて、ここら辺が平穏なのも彼らのお陰だ。
そのシマを荒らすなど、ボンゴレを知っている者ならするはずもない。
現に、私がこっちに来てから街で起こった事件を聞くのは初めてだった。


「あんたも気をつけなさいよ、ここには子供と幟歩から…って言っても白夜がいるから大丈夫か」
「(大丈夫かな?)」
「ただの大型犬に見えて実はオオカミなんだものね、これほど強い番犬はいないでしょうよ」
「(大変だろうな…また戦ってるのかな…怪我、してないといいけど…)」
「って聞いてるの、幟歩………幟歩?」


肩を揺すぶられて気づくと、メーテルが心配そうに私を見ていた。


「あっ、ちょっとぼーっとしちゃってた」
「……」
「誘拐だなんて物騒よね、メーテルも気をつけたほうがいいわ」
「ごめんなさい…ボンゴレの話なんかしなければよかったわね…」


彼女は私の事情を知っているから、いらない心配をかけてしまったみたい。


「…ちょっと考え事してただけよ、教えてくれてありだとう」


手を握って微笑めば安心したのか、メーテルも笑ってくれた。
この話はもう止めようと、今度はお店のこととか隣の家の幼馴染のこととか、面白おかしく話してくれたから私は笑いが止まらなかった。


「また何かあったらくるわね」


そう言ってメーテルが帰っていったあと、どこかに隠れていたのか白夜がこっそりと出てきた。


「相変わらず賑やかだなメーテルは」


白夜はメーテルのことが少し苦手みたいで、こそこそと隠れている白夜はちょっとかわいい。
耳の後ろを撫でてやると擽ったそうに身を捩った。


「ねぇ、白夜…」
「どうした、」
「ボンゴレのシマを荒らしてるっていうマフィアを調べてほしいの」


白夜の目つきが変わる。
怒りや憎しみや悲しみが混ざったような複雑な黒になる。
私は何度この目を見てきただろう。


「幟歩が望むのなら…」


すっと私から離れて、そのまま白夜は深い森の中へ消えてしまった。


「ごめんね…」


思いだすなといつも私に言ってくれるのは私の事を本当に心配してくれているから。


「(その優しさを私はいつも利用してる。)」


白夜が行ってしまったあとを見て、泣きそうになってしまった。










数日後、白夜は少し薄汚れて帰ってきた
駆け寄る子供たちの相手もせず真っ直ぐこっちにくると無言で私を部屋へと連れていった


「おかえり」
「あぁ…」
「怪我しなかった?」
「俺を誰だと思ってる」
「フフ…そうね、ごめんなさい」


しばらく無言の状態が続いた。
最初にその空気を切ったのは白夜の方だった。


「敵が分かった」
「随分早かったのね、みんな必死に探しても分からないのに」
「裏路地の野良犬共が見ていた、流石のボンゴレでも動物から情報収集は出来ないだろう」
「でもリボーン君なら出来ちゃいそうね」
「…………。」
「…………。」


冗談っぽく笑ってみてもなかなか話しだそうとはしてくれなかった。
無言が続く。
今白夜の中では私に話すかどうか葛藤してるのだろう


「……話して、白夜」


促すと、目が悲しそうに歪んだ。


「ツナ君のことを心配してるわけじゃない。私は孤児院の代表として子供たちを守りたいだけなの」
「………ベルラーゴファミリー。ゴロツキが集まって最近出来たマフィアだそうだ。シマが無いっていうんで手始めにここを狙ったらしい。」
「でも相手はボンゴレよ。どうしてそんな無謀なことを…」
「見た奴が言うには人を煙に変えて消してしまう妙な能力を持った奴がいるんだとよ。それなら目撃者もいないし、簡単に誘拐が出来る」
「そんな魔法みたいなことがあるの?」
「マフィアには昔から不思議な力が宿る指輪があると聞く。もしかしたらそのおとぎ話が本当にあるのかもしれない。」


そういえばツナ君たちも指輪をしていた気がする
確かボンゴレリングっていって肌身離さず持っていないといけないと聞いたことがある。


「ツナ君…(ボソッ」
「!!もういいだろ、あいつらの狙いはボンゴレだ。外れにあるここまでは来ないだろう。もう関わるな」


無意識に出た名前に白夜の皺が寄った


「そう…だよ、ね…」


忘れたいと関わりたくないと願ったのは私、でも寂しいと思ってしまうのも事実だった
それぐらいみんなでいたあの時間は輝いていた
戻れるものなら戻りたい、またみんなで笑いたい


「(なんて、出来ないのにね…)」


自分の考えに自嘲する



どんなに輝いていた思い出もあの落ちる瞬間を思い出せば手が震えるほど怖い



窓から見た大空は今日も彼のように青く澄んでいる









「(ツナ君、私は二度と貴方には会えない
でもね、貴方達の幸せはいつまでも願っているよ)」


Desidera sempre〜いつも願う〜
(エリゲロンの花言葉は遠くから見守る)



















「なんで、ボンゴレのことを……」
物語は少しずつ動き始める





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