4

可笑しい…



絶対に可笑しい…




『六道さん、お茶のおかわりはいかかですか?』


『お兄ちゃーん、あそんでー!!』




この僕が子供に囲まれて呑気にお茶してるなんて…!!





子供が連れてきたのは「先生」と呼ばれる女性だった。
簡単な挨拶もそこそこに帰ろうとした僕を彼女は引きとめ、あれよ、これよという間にこの状況になった。


『ね〜お兄ちゃん、あそうぼうよー!!』

『ボールであそぼー』

『それより、おままごとがいい!!』

『いっ!ちょ、ちょっと髪を引っ張らないで下さい!』

『お兄ちゃんの髪パイナップルみたい…』

『アハハハッ!ほんとだー』

『パイナップルお兄ちゃんだね!』

『パイナッ…!!これはおしゃれですよ!!』


やっぱり子供は嫌いだ…!!
さっきまで泣いてた子も嘘みたいに、今は笑いながら僕にひっついている。
他の子も髪を引っ張ったり、周りをウロチョロしたり、鬱陶しいだけだ。

『みんな、六道さんが困ってるでしょ。向こうで遊んでなさい』

『『『はーい!!』』』

『ごめんなさい、ここに人が来るのは珍しいから、みんなはしゃいじゃって』

呆れ顔で、でもどこか嬉しそうに笑った彼女は僕の前にもう一度紅茶を置いた。
僕はそれを飲みながら、周りを見渡してみる。

子供たちが遊んでいる広場に木造の家、森の中にしてはそこは広く、よく整備されている。

『随分大きな所ですが、ここは貴方が作ったんですか?』

『いえ、私は二代目です。』

『二代目?』

『私は元々日本にいたんですが、先代が孤児だった私を引き取ってここに連れてきてくれたんです。先代が亡くなった後、恩返しもこめて私が引き継ぎました。』

『そうだったんですか…』

どうりで少し癖のあるイタリア語を使うと思った。
彼女にはまだ使い慣れていないんだろう。

「僕も少し日本にいたことがあるんで、日本語で大丈夫ですよ。」

日本語で話しかけてみると、彼女は驚いた顔をしたあと「ありがとうございます」と笑顔で答えた。

「(ん…?)」

その笑顔を見て心臓が撥ねた気がする。
不思議に思って左胸に手を当ててみると、そこはとくんとくんと少し早めに鼓動を打っていた。

「六道さん?どうかしましたか?」

僕の傍によって顔を覗いてくる彼女を見て、その動きはさらに早くなる。

「いっいえ…なんでもないですよ」

「そうですか?なら、いいですけど…」

『先生、転んじゃったー…』

『あらあら、すぐに手当てしようね』

優しい笑顔で手当てをする彼女から目が離せない。
彼女が笑う度、心臓がどんどん早くなってる気がする。

それはまるで、彼女に恋をしてしまったような……

「(違う!そんなことありえない…!!)」

忙しなく動く胸を握りしめた。

僕は裏の世界で生きてきた、これからもそれは変わらない。
そんな僕が今更こんな感情を持つなんてあってはいけない。

ボンゴレの前でも感じたものがまたざわざわと騒ぎ出す。
理解できない、したくもないものが僕の中にあるだけで気持ち悪い。

「六道さん、やっぱり気分でも悪いんじゃないですか?」

いつのまにか彼女は僕を心配そうに見つめていた。
子供に向けるように僕を労わる表情を見て、僕はふと彼女なら僕を救ってくれるんじゃないかと思った。
深く深呼吸をして、僕の中にあるものを一つ一つ言葉にしていく。

「自分の中に…理解できない感情があるんです。」

「理解できない?」

「今まで僕が感じたこともない気持ちが僕の中にあると思うと、吐き気がする…!」

上手く通じたかは分からない。
でも思った以上に僕はそれを嫌悪していて、言葉にしてみると渦巻いていたものが大きくなった。
カップを持つ手に力を入れる。
入れすぎた力にカップは軋んだ音をたてた。
その音が僕の心の音みたいで、歯を食いしばって耐えるしかなかった。


ふと、手に温度を感じて見てみると、華奢で白い手がそっと僕の手を包んでいた。
その手の持ち主は言うまでも無く目の前にいた彼女で、彼女は僕と目が合うと優しく微笑んだ。


「…私には六道さんが今までどういう人生を送ってきたか分かりません。でも、自分の中に理解できない感情があるってことは、きっとそういう気持ちが邪魔になる生活を送ってきたんですね」

彼女はそう言うと、包んでいた手の力をさらに強くした。



「理解できないなら、無理にしなくていいんです。元々、感情とはそういうものですから。」





「でもね、六道さん。貴方が思うほどその気持ちは邪魔ではないですよ。」






「だから六道さんのペースでゆっくり向き合ってみませんか?」





「それでも辛くなったらいつでもここに来て下さい。」





「おいしい紅茶とお菓子を用意して、待ってますから」





彼女の言葉に今まで吐き気がするぐらい気持ち悪かったものが、すっと浄化された気がした。
まっすぐ僕を見てくれる目を見て思わず泣きそうになる。

「ごめんなさい、偉そうなこと言っちゃって…。何も知らない私が言うことではなかったですよね…」

いつまでも反応しなかったからか、彼女は困ったように笑ってそっと手を離した。
離して欲しくない…!!
そう思って、その手をもう一度握る。

「六道さん?」

「骸……」

「えっ?」

「骸と呼んでください……幟歩」

「!!…はい、骸さん」


彼女は相変わらず優しく微笑んで、僕の手をぎゅっと握ってくれる。
僕も思わず笑った。



久々に感情を表に出した。





Io non voglio capire〜理解したくない〜
(君に感じたこの感情なら理解してもいいかもしれない)


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