16

〜side ツナ〜


俺は京子ちゃんは好きだ。


入学した時からあの可愛い笑顔が頭から離れない。
だからこそ京子ちゃんを傷つけた黒羽のことが許せない。
京子ちゃんの優しさに触れておきながら簡単に裏切ったことが許せない。


「ツナ君聞いて!皐月ちゃんは何もしてないの!!」


今日も黒羽を痛めつけてやった。
でも京子ちゃんは喜ぶどころか未だに黒羽のことを庇う。

可哀想に…きっと凄く脅されたにちがいない。


「(また痛めつけとかないと…)」


獄寺くんと山本と一緒に黒羽を体育館裏に呼び出した。
いつも通り殴って、蹴って、罵倒しても、黒羽は涙ひとつ見せない。
それがとてもつまらない。
俺は黒羽の泣いて叫んで、必死に許しをこう姿が見たいんだ。
山本がバッドで殴った。獄寺くんがたばこを押し付けた。
それでも顔色一つ変えない黒羽にいらついてきて、カッターで顔に傷でも作ってやろうとしたら雲雀さんが来た。


雲雀さんは最近可笑しい。黒羽なんかをいっつも庇ってる。
不本意にも俺の守護者なのに、京子ちゃんの…俺の味方をしないで黒羽に唆されるなんて……雲雀さんもたいしたことないな。
トンファーを構えて猫みたいに威嚇してくる雲雀さんを俺はなんの恐怖も持たずに見つめていた。
前まではあんな恐ろしい存在だったのに、今は何も感じない。
でも獄寺くんたちは違うみたいで、俺の腕を引っ張るから、仕方なく俺はそのまま家に帰ることにした。


「雲雀、怖かったのなー」
「あぁ、あんなに殺気纏ったアイツは初めてみるぜ…」
「二人とも大げさだよ。あんなの全然怖くなかったじゃん」


帰り道、さっきのことを二人が少し顔を青くして言うから、俺が笑っていうと吃驚したように俺を見た。


「「……。」」
「なっ何…?」
「いや…なんかツナ変わったな」
「ボスとしての貫録で溢れてます!!」
「貫録って…J」
「強くなったってことだよな♪」
「流石です!10代目!!」


貫録がついたとか正直嬉しくないけど、強くなったと言われて悪い気はしなかった。
リボーンに言ったら少しは見直してくれるかもしれない。
家に帰るのが少しだけ楽しみになった。







「ただいまー」
「ツっくん、おかえりなさい。リボーンくんが部屋で待ってるわよ」
「リボーンが?」


同じ家に住んでいて待ってるとはどういうことだろうか…?
何か急ぎの用事があるのかもしれないと思って部屋に行ってみると、リボーンは珍しく深刻な顔をして座っていた。
その只ならぬ雰囲気に一瞬息をのんだが、気にせずそのばに座った。


「リボーン、なんか用かよ?」
「…黒羽皐月を知っているな?」
「…なんで、お前の口からあんな奴の名前が出てくる」


リボーンから出た名前に思わず顔をしかめると、リボーンは少し驚いた素振りをした


「フッ、お前から殺気を感じる日がくるとはな」
「質問に答えろよ」
「…京子が俺に話してくれたんだぞ」


京子ちゃんの名前が出たとたん俺の心は嘘みたいに落ち着いた。
きっと京子ちゃんは黒羽の仕返しが怖くてリボーンにも相談したんだろう。


「俺たちだけでなんとかするのに、京子ちゃんったら心配性だなぁ」


可笑しくて少しだけ笑うと、リボーンは眉をしかめた。


「ツナ、お前…本気で言ってるのか」
「ん?」
「本気で言ってんのかって聞いてんだ!!」


リボーンが今までで見た事もないような顔して怒っている。
どうして怒ってるのかまったく分からない俺はたじろぐことしか出来ない。


「なっ何急に怒ってんだ、可笑しいぞお前」
「可笑しいのはお前だ、ツナ。お前の超直感はなんのためにある?仲間を守るためだろう!!」
「だから!俺は京子ちゃんを守るために…!!」
「…どうやらボンゴレ10代目になると思ったのは見込み違いだったようだな」
「!!」


呆れたように溜息を吐かれた。
俺にもう一度向けた視線は軽蔑の意も込められてるような気がする。
それは今までで初めての事で、心がキシリと音を立てた。


「ツナ…お前にはもう京子を好きという資格なんてねぇぞ」


言い聞かせるような声でそう言い、リボーンは「しばらく出てくる」と窓へ向かう。


「待てよ、リボーン!!なんのことだよ!!」
「それはお前自身が気づかないといけないことだ」


とっさに引きとめてもリボーンは俺に目もくれず、そのまま外へ姿を消した。


「俺が、間違ってるとでも言う気かよ!!」


姿が見えなくなった窓にそう叫んだ。







----------------------------------------------------------------------------------------------------


次の日、リボーンのこともあってあまり寝むれなかったまま学校へと来た。


「(俺は間違ってない…!)」


呪文のように昨日から呟いても、俺の心は小さな蟠りが出来たままだ。


「よう、沢田!」
「おはよー沢田くん」
「おはよう」


クラスメイトと朝の挨拶。
今まではありえなかったけど、黒羽のことがあってから俺はクラスの中でなかなかの発言力を持つようになったみたいだ。
皆が俺についてくる。
それは優越感を感じるには十分で、俺が正しいと思うにも十分だった。


「今日はさぁ、黒羽に何する?」
「でも、最近雲雀と仲良いんだろ?」
「この前もすぐ助けに来たりさ、やりにくいよな〜」
「じゃあ、視聴覚室でやろうよ。あそこならカーテン閉めたら誰にも見えないし」
「さっすが沢田!頼りになんな!!」


俺の言ったことで皆が喜んでいる、頼りにされている。


「(ほら、俺は正しい)」


間違ってるのはお前のほうだよ、リボーン
俺はこんなにも皆に頼られる存在になったのに分からないなんて、馬鹿だよ。
クラスの中心、俺が欲しかったものは皮肉にも黒羽お蔭で手に入った。


「ツナ君、おはよう」
「おはよう京子ちゃん!」
「あのちょっといいかな?」
「うん?」


京子ちゃんが朝の挨拶もそうそうに俺を呼び出す。
周りは面白そうに囃したてるだけで、前みたいに馬鹿にする奴がいない。
それだけで俺は今日何度目かの幸福感を感じた。


「昨日リボーンくんが家に泊まりに来て…」
「!!ごめんね、京子ちゃん!今日連れて帰るよ!!」


あれから姿が見えないと思ってたら、アイツ京子ちゃんの家に!!
何にあんなに怒っているのかは知らないけど、京子ちゃんを巻き込むのは止めてほしい。


「ううん、それはいいんだけど…リボーンくんから話を聞いた?」
「あぁ…黒羽のこと?聞いたよ」


また黒羽のことだ。
昨日からアイツの話しか聞いていない気がする。


「じゃあ―ー」
「京子ちゃんもさ、リボーンじゃなくて俺に言ってくれたらよかったのに」


パッと顔を輝かした京子ちゃんに俺は呆れたように言う。
リボーンを頼りたくなる気持ちは分かる。
俺だって今までならそうだった。


「ツナくん…?」
「今の俺はもうダメツナじゃなくなったんだ」


ずっと俺を馬鹿にしていたクラスメイトも今では俺に従う奴ばかり、西園寺さんも俺を頼ってくれている。
リボーンの助けを借りて何かをしようとしていた俺は卒業した。


「見ててよ。京子ちゃんを苦しめたは俺が徹底的に潰して…」
「ツナくん!!もう止めて」


喜々として語る俺を止めたのは意外にも京子ちゃんだった。
普段は大人しい彼女が大きな声を出すのを俺は初めて聞いたから、びっくりする。


「最近のツナくん可笑しいよ!前あんなに優しかったのに、今は何?!人を傷つけて楽しんでるだけじゃない!!」
「きょっ京子ちゃん?」


何を言ってるんだろう?
興奮して段々支離滅裂になってきている京子ちゃんを見て俺は本気でそう思った。


「落ち着いて!」
「っ!離して!!」


咄嗟に取った手は無残にも簡単に振り払われた。
それが意味するのは明らかな拒絶ーーー。
茫然と振り払われた手を押さえる俺に京子ちゃんは消え入りそうな声で呟いた。




「―――――信じてたのに」




そっからはよく覚えてない。
ただ京子ちゃんの泣きそうな顔を俺がさせたのかと思うと目の前が真っ暗になって、気が付いたら教室に戻ってきていた。
俺の斜め前に座る彼女は普通に授業を受けていて、さっきのは夢だったんじゃなかったのかと思うぐらい教室はいつも通りだった。


ぼうっと振り払われた手を見る。
初めて人に拒絶された手はじんわりと痛みを持っている気がした。


「(俺は…何がしたかったんだっけ…?)」


少なくとも京子ちゃんにあんな顔をさせる為じゃなかったはずだ。


「(俺が気づかないといけないことって何だよ…リボーン)」


思ったところでふと気がつく。
困った時は無意識にリボーンに頼ることが染みついているみたいだ。
なんだよ、結局俺はあの家庭教師がいないと何も出来ないってことかよ。
ふっと自嘲気味に笑うともう何もかもどうでも良くなった。


「俺は間違ってない…」


自分に言い聞かせるみたいに呟く。





小さく痛みを訴える手を黙らせるみたいにぎゅっと握りしめた。









[ 19/20 ]

[*←] [→#]
[戻る]
[しおり]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -