11


「皐月ちゃん!今日は何をして遊ぼうか?」

幼い葉月がウチの手を引いている。

「(あぁ、これは夢か…。)」

これはまだ葉月と暮らしていた頃…あの時はずっと一緒にいられると思ってた。

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「葉月…。」

「いい加減起きたら?」










「……誰じゃお前。」

夢から覚めてうっすらと目を開けたら、見知らぬ男が馬乗りしていた。
柔らかい黒髪が顔にかかって少しくすぐったい。

「君、女でしょ?普通もっと驚くものじゃない?」

呆れたように溜息をついて、その男はウチの上から降りた。
勝手に乗っといて、そう言われても…。

「ここはどこじゃ?ウチは屋上におったんじゃけど…」

「君、虐められてるの?」

「質問してるのはこっちじゃ。」

男はウチの言うことを無視して豪華な椅子に腰かけた。

「まずは僕の質問に答えて。君は虐めを受けてるの?」

「これは…別に…」

悲劇のヒロインを気取るつもりは毛頭ない。
でも体中の傷が虐めを物語っていた。
それにコイツはあの現場を見ている筈だ、言い逃れは出来そうもない。

「…黒羽皐月。君、鳥羽葉月の姉なんだってね。」

「!!何で知って…!?」

「僕の情報網を甘く見ない方がいい。」

そう言って、一枚の書類を見せられた。
そこにはウチの学生写真と今までの経歴が全て書かれていた。

「並盛に風紀を乱す奴はいらないからね。君のことはすべて調べさせてもらった。」

「風紀…?!なんにしても、人の事を勝手に調べて嫌な奴じゃ…!」

不快感が顔に出るのが分かる。
目の前の男が勝手にウチと葉月の事を引っ掻き回すのが許せなかった。

「君が鳥羽葉月を守りたいように、僕も並盛を守りたいからね。」

そう言って男は銀の棒のようなものを構えた。

「君がどうして虐められてるのかは知らないけど、並盛の風紀をこれ以上乱すつもりならここで咬み殺す…!!」

突き刺す様な殺気を肌に感じる。
ふと屋上での会話を思い出した。
あいつらがあんなに怯えていたのは、この男が暴力で戒めているのを知っているからなんだろう。
コイツは強い…そう直感的に分かった。

何で…何でその力で葉月も助けてくれなかった!!!」

男自身がどう思ってるかは知らないが、屋上での事や傷の手当てもしてくれて、ウチは助けられたと思っている。
でもウチを助けるぐらいなら葉月も助けてほしかった。
あの子はウチなんかよりも遥かに儚い存在なんだから…!

「鳥羽葉月…確かに彼女がクラスメイトから虐めを受けていたのは知っていたよ。でも彼女は怯えるばかりの草食動物だったからね、興味無い。」

しれっと言い放った男に殺意が湧いてくる。
身体は恐怖で動かなかったから、代わりに思いっきり睨んだ。

「!!…ワォ、君は妹と違って草食動物じゃないみたいだね。僕と同じ匂いがするよ。」

痛いほどの殺気が解かれ、棒も仕舞った男はゆっくりウチに近づいてくる。

「君の目は血に飢えた獣みたいにひたすら強さを求めている…」

まだ睨み続けるウチの目を真っ直ぐ見つめると、男は嬉しそうに笑った。

「僕は雲雀恭弥。君が気に入ったよ黒羽皐月。君ならいつでもここに来ていいよ。」

雲雀恭弥はしゃがみ込んでいたウチを立たせるとまた椅子へと戻った。

「待て、雲雀恭弥!話はまだ終わってない!何故葉月のことが気に入らない!!」

今まで葉月よりもウチが気に入ったという奴はいなかった。
当然だ。いつも無愛想だったウチよりいつも笑顔だった葉月の方がいいに決まってる。

「僕は草食動物が嫌いなんだ。怯えるばかりの妹より立ち向かおうとする皐月の方がよっぽどいい。」

「なっ…!!」

不敵に微笑んだ雲雀に呆気に取られる。
調子を随分崩された気がした。

「(変な奴じゃ…。)」

葉月を見捨てたことはまだ許せなかったが、気にいったと言われて不思議と悪い気はしなかった。
むしろ嬉しかったかもしれない。


この日からウチは応接室に入り浸るようになった。






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