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「西園寺に謝れよ!」

「百花ちゃんが可哀相でしょ!!」

教室は非難の声で一杯になる。
それは甲高い声や野太い声も含まれており、いい加減耳障りになってきた。

「もう、やめてぇ!!」

鶴の一声とはこういうのか、泣きながら言う西園寺を見て、教室は静まり返った。

「京子ちゃんもこのクラスの仲間なんだよぉ。仲良くしようよぉ…。」

「……でも、京子ちゃんが百花ちゃんの机に落書きを…。」

「いいの…あたしがいつの間にか京子ちゃんを傷つけちゃったんだもん。」

「そんな!百花ちゃんは悪くないよ!!」

「だから、泣かないでー。」

ついに泣き出した西園寺を皆で囲んで慰めている。
笹川京子はこの状況にただ呆然としていた。
少し可哀想になってきたし、ウチはこの反吐が出る芝居を終わらせることにした。

「これ、笹川京子がしたんじゃないじゃろ。


「「!!??」」












〜side 京子〜

「これ、笹川京子じゃないじゃろ。」

そこまで大きくない声なのに、その声は透き通って聞こえた。

声を出したのは、ついこの前転校してきた黒羽皐月さん。
私はあまり話したことないけど、よくツナ君たちと一緒にいるのを見かけた。
印象ではあまり目立つタイプではなかったと思う、特に皆に注目されるような発言を好んでするとは思えなかった。

教室がしんとする。
百花ちゃんの机の前まできた黒羽さんは落書きされた所を指先でそっと撫でて、皆を見た。
とても威圧感のある瞳だった。

「これ書いたとしたら放課後じゃろ?昨日笹川京子がすぐに帰ったのをウチ見たし、朝に書くとしてもついさっき来たんだから無理じゃ。」

「でも、もしかしたら一度帰ってまた来たんじゃ…。」

「それだと、効率が悪い。誰かに見られるかもしれんしな。」

探偵みたいに指摘をする。
自信たっぷりにいう姿はどこかかっこよかった。

「それに…お前らが知っとる笹川京子はこういう姑息なことをする子じゃないじゃろ?」

根拠なんて何もないのに、さも正論のように言うものだから、皆の思考は責めるのをやめた。

「…確かに…そうかも。」
誰かがポツリと言った言葉。
それはクラスの皆が思ったらしく、バツが悪そうな顔をしている。

「それに、西園寺。これがもし笹川京子のした事ならこれはお前らの問題じゃ。皆を捲き込むような真似はするな。」

奥歯を噛みしめた顔で悔しそうにする百花ちゃんが目に入った。
歪んだその顔は他の人には見えないようで、誰も気が付いてない。

でも、次の瞬間にはいつもの百花ちゃんに戻っていて、私のところに来ると、手をギュっと握ってきた。

「ごめんねぇ、京子ちゃん。あたしが勘違いしちゃったせいでこんなことになっちゃって…。」

「つっ…うっううん、大丈夫だよ。」

握られていた手に力を込められ、痛さで顔が歪む。
周りでは皆が「ごめんな」とか「許してくれる?」とか言っていたような気がするけど、そんなの耳に入らなかった。

ただ目の前に誰にも見えないように怖い顔をして、「次を覚悟しててね」って言った百花ちゃんから目を逸らせない。
私が恐怖で震えていると、すっと静かに私たちの間に誰か入ってきた。
「笹川京子。気分が悪いみたいじゃ、保健室に行こう。」

「チッ…え〜京子ちゃん大丈夫??気をつけて行ってきてねぇ。」

小さく舌打ちをして、百花ちゃんは笑顔で手を振っている。
私をまたも助けてくれたのは黒羽さんで、横目に百花ちゃんを見て、そのまま私を教室の外に連れて行ってくれた。

「大丈夫か?手、痛そうだったけど…。」

「うん、平気だよ。」

あまり喋ったことがない私を本気で心配してくれる黒羽さんを見て、さっきまで恐怖で冷えていた心が暖かくなる。

「京子!!」

「あっ、花!」

「保健室行くんでしょ?あたしも一緒に行くわ。」

花が私のほうに駆け寄ってきた。
私を支えるように傍に立ってくれて、安心する。

「黒川花が来たんなら、もう平気じゃな。先生にはウチが言っとくから、しばらく保健室におったほうがええよ。」

そう言って教室に戻ろうとする黒羽さんを慌てて引き止める。

「あのっ、助けてくれてありがとう!」

「あたしからもお礼を言うわ。京子を庇ってくれてありがとう。」

「気にしないで。ウチが勝手にしたことじゃ。」

優しく笑ってくれた黒羽さんを見て思った。
この人なら信じられる…仲良くしたいって…。

「私、笹川京子。京子でいいよ。私と友達になって!」

突然の申し出に驚いた顔をしたけど、すぐに笑ってくれて、

「ウチのことも皐月でええよ。よろしく京子。」

「あたしも花でいいわ。皐月となら仲良くなれそうね。」

「よろしくな、花。じゃあ2人とも保健室行ってき。」

「そうね、行くわよ京子。」

「うん!じゃあまた後でね…皐月ちゃん。」

笑顔で手を振ってくれている彼女を見えなくなるまで、横目で見ていた。



教室に行ったとき皆に責められて、今日は厄日だと思った。


でも違ったんだ。


皐月ちゃんが助けてくれて、友達になれて、今日はとてもいい日だ。


さっきまで暗かった心が晴れていく感じがした。




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