「ねえ、鬼男くん」

「何ですか?」

「好きって言って」

またか。
心の中で呟き、ため息をつく。

ここ最近、大王は何かと僕に好きと言わせたがる。
それ言ったらちゃんと仕事してくれるのかと聞いたら、「そんな交換条件みたいな好きは嫌だ!」と叫んで逃げてしまわれたのが4日前。

「ねー言ってよー」

「言わなくても分かってるでしょう」

「俺は鬼男くんの口から聞きたいのー!」


(いやこの流れで言ったら仕方なく好きって言ったみたいだろ…)

困り果てて黙り込んでいたら、ぐすんぐすんと鼻をすする音がし始めた。


まさかと思い振り向くと、椅子に座っていた筈の大王が僕の目の前で泣いていた。

「だ、大王!?」

「っぐひ…っ鬼男くんは俺の事ほん、とに好きなの…っ?」

「……っ!」


今まで泣くことは幾度となくあったけど、こんな大王は初めて見る。
あぁ、泣かせたのは紛れもなく僕なんだ。

泣きじゃくっている大王をそっと抱き締める。

改めて感じる、自分より低い身長と華奢な身体。

頭を優しく撫でてやると、ゆっくりと背中に腕が回ってきた。

あぁそうか。
大王は僕からの好きがほしかっただけじゃないんだ。


「…最近ずっと忙しかったからなぁ…」

「…ふぇ…?」

両頬を手の平で挟み、目を合わせる。


「大王、本当は僕に抱き締めてほしかったんですよね?」

「!!」

「だけど僕の仕事を邪魔したら怒られると思って、言葉で満足しようとした、違いますか?」

そう尋ねるとしばらく赤い瞳を右に左にウロウロと動かし、赤い顔で口を開いた。

「…ご、ご名答、です…」


やっぱりな、と笑うと大王はぷくっと頬を膨らませた。可愛い。

「何で分かっちゃうかなぁ!頑張って我慢してたのになぁ、そういう変な所にまで勘が鋭いの困るなぁ!」

なんて言ってるくせに、背中に回された腕はさっきまでの弱々しい力じゃなく、ぎゅうっと甘えるような抱き着き方だったり。


「大王、」

「なに…んむっ」

軽いリップ音を立てて唇を離すと、みるみる真っ赤になっていく大王。


「不意打ち弱すぎ」

「だ、だって君がっ」

「愛してますよ、大王」

「っ!!お、俺もだよ、ばーか!」

舌を出しあっかんべーをして、ふふっと笑顔になる。
やっぱり大王は泣き顔より、笑顔の方が何百倍も可愛いんだ。





わがままな要求
(何回も言うのは勘弁ですけど)




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