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「なまえさんは知りやせんか?」
『…いや、知りませんね』
沖田さんに聞かれ、銀ちゃん以外の白髪の侍を頭の中で詮索してみるものの思い浮かばない。沖田さんは残念そうに「そうですかィ」と呟いた。
「おーい、兄ちゃん危ないよ」
すると、突然土方さんの頭上から声が聞こえた。かと思えば大量の木片が降ってきた。土方さんは間一髪でそれを避ける。
「あっ…危ねーだろーがァァ!」
「だから危ねーっつったろ」
「もっとテンションあげて言えや!!わかるか!!」
『あ、銀ちゃん』
屋根から降りてきたのは銀ちゃんだった。(珍しく朝早く出かけたと思ったら大工の仕事してるのか)
「おォ、なまえじゃねーか。何してんだ」
『団子屋の帰り』
「あ゛あ゛!てめーは池田屋の時の…」
すると起き上がった土方さんが銀ちゃんを見て大声をあげた。
「…えーと、君誰?」
どうやら土方さんは銀ちゃんのことを覚えていなかったようだ。なお、銀ちゃんも覚えていない。(なに?江戸の人って忘れっぽいの?)
『ほら、銀ちゃん。テロの時の…』
私がこっそり耳打ちをしようと近づく前に銀ちゃんがあー…と思い出したように呟いた。
「もしかして多串君か?アララ、すっかり立派になっちゃって。なに?まだあの金魚デカくなってんの?てかなに。いつの間になまえと知り合ってたんだ?」
思い出したのか銀ちゃんは土方さんを多串君と呼んで親しそうに話していた。(アレ?めちゃくちゃ親しそうなんだけど。テロ前から知り合い?それともテロ後に仲良く?てか金魚ってなに)そしてそのまま屋根の上にいる人に呼ばれて屋根へと戻っていった。
「いっちゃいましたよ多串君」
「誰が多串君だ」
『土方さんて多串君て名前なんですか?え?偽名?』
「ちげェよ!あいつが間違ってんだよ!あの野郎…人のこと忘れやがって。総悟、ちょっと刀貸せ」
「?」
土方さんは屋根を見上げながら沖田さんに刀を借りると梯を使って屋根へとのぼっていった。残された私と沖田さんはそれを見ながら立ち尽くしていた。
「なまえさん、白髪の侍知り合いじゃないですかィ」
『いや、アナタたちも覚えてる上で銀ちゃん以外のこと聞いてるもんかと』
「…まァ普通そう思いやすね」
『…まさか戦うんですか?』
「……来てくんなせェ」
私の言葉に沖田さんは少し間を置くと私の手を引き、どこかへ連れていった。