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「なんてこった。まさかアレで引かねーとは…我が娘ながら恐ろしい」
「いやホントに恐ろしいよ」
「なんだお前、まだウンコの事言ってんのか?お前他人に言ったら殺すからな」
『いや蒸し返してるのアナタでしょう』
私達はあれからひとまず休憩する為、かつ栗子さん達が見える位置にあるベンチへと移動した。土方さんはくわえていた煙草を口から離すとゆっくりと口を開いた。
「とっつァん、安心しな。アンタの娘は漏らしてなんかいねーよ」
『どうやらそうみたいですね。七兵衛は着替えたのに栗子さんはそのままみたいですし』
「ケツに挟めたまま歩いてんじゃねーのか?」
「んなワケねーだろ!オメー娘が可愛くないのか!?…アンタの娘はなァ、野郎を傷つけない為にあんなウソ言ったんだよ」
「何?」
「トシ、それはアレか。栗子ちゃんは脱糞なんかじゃ全然引いていないと…。お前となまえちゃんはオレが脱糞してドン引きしてたのに栗子ちゃんはそんな汚い部分も含めて奴を包み込んでいると…そーゆー事か?」
『やだなァ〜近藤さん。私は別に引いて…』
「近藤さん、俺も引いてますぜ」
『沖田さん、しーっ!』
「…待ち合わせで一時間待ちぼうけくらっても笑ってた事といい、こいつァ本気で…」
「!とっつァん!アレ見ろィ!」
「!!」
土方さんの言葉を遮った沖田さんが指差した方へと視線を向けると遊園地のシンボルである大きな観覧車へと向かう栗子さん達の姿があった。
「ヤベー、観覧車に向かってますぜ。間違いねェ、チューするつもりだ」
「何!?そうなのか!?」
「観覧車っつったらチューでしょ。チューする為に作られたんですよ、あらァ」
『いや絶対違うでしょ』
「そうなの!?知らなかった!オイオイ!栗子ちゃんが危ない!」
『近藤さん鵜呑みにしないで下さい』
「てなワケでなまえさん観覧車乗りやしょう」
『えっ』
「オイぃぃ!何どさくさに紛れて誘ってんだテメー!なまえも顔赤らめてる場合か!」
「オイ!こうしちゃいられねェ!四の五の考えるのは後だ!!行くぞ!」
「オイ、大至急アレを用意してくれ!」
『あー行っちゃった』
「……」
松平さんと沖田さんと近藤さんは二人がチューすると、なんか勝手に思い込んで急いで二人の後を追いかけていった。松平さんが誰かに電話をかけていたところを見ればコレは大事になりそうだ。私は少し心配になった。だが、土方さんは止める事もなくベンチに座り込んだままだった。私もベンチに座り込んだまま土方さんへと顔を向けた。
『土方さん、どーします?』
「……」
『土方さん?』
「…クク」
何か考えているのか。土方さんは私の呼ぶ声に返事を返さないでいた。かと思えば、いきなり笑いだした。
『どーしたんですか土方さん?マヨネーズの食べ過ぎで壊れました?』
「…オメーは」
『え?』
すると、やっと私へと言葉を発した。
「愛はあると思うか?」
『…それはまァ、あるかと』
「なら、その愛する奴が大のマヨラーでご飯がマヨネーズに埋もれて見えねェ丼を食ってても、それでもオメーはその男を愛せるか?その丼を一緒に食えるか?」
『……』
なんという質問だ。(それって土方さんの問題のような気もするけど…)だが、私はそんな土方さんの問いかけに考える事もなく、ふっと笑った。
『愛せますし一緒に食べます。なんなら、おかわりしてやりますよ』
「!……」
土方さんは目を見開き固まっていた。(自分が聞いたくせになんで驚くんだ)
「…愛なんて幻想だと思っていたがな」
すると、土方さんはベンチから腰を上げるとニッと笑った。
「オメーの言葉、信じてやってもいい」
そんな土方さんの言葉に私もニッと笑い、立ち上がった。
『愛の存在しない世界なんてつまらないでしょう?』
「なら見せてもらうぜ。愛ってやつを」