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「あ゛あ゛あ゛あ゛!?解雇ォ!?」
翌日。
昼御飯を食べていると二階から新八くんの叫び声が聞こえてきた。
『やっぱり…』
「全く…いつも二階は騒がしくて困ったもんだよ」
『でも今回はしょうがないよ』
「…なまえはこれで良かったと思うのかィ?」
『!……』
ふと、お登勢さんに投げ掛けられた言葉に黙り込んでしまう。昨夜からずっと考えていた事を当てられたような、そんな気がした。
『…わかんないや』
「そうかィ…」
『…私は、片岡さんやお登勢さんに育てられてきて家族が好きだ、一緒に居たいとは思うんだけど…神楽ちゃんの気持ちからすれば、ずっと家に居なかった星海坊主さんと一緒に居るより、ずっと万事屋で毎日一緒に居た銀ちゃんとこれからも居る方がいいのか…どっちが正しいのかわからない』
「…まァどっちが間違っていて、どっちが正しいかなんて、ないのかもねェ。他人が人の人生とやかく言う筋合いもないんだ」
『……』
「チャイナ娘はどうしたいって?」
『…ここに居たいって。…だけど銀ちゃんは帰れって言ってるから…』
「…難しい年頃だからねェ。まァこっちは厄介者が一人減って清々するよ」
『……』
確かにそうだ。私が神楽ちゃんの人生どうこう言える権利はない。とにかく、私が悩んでいてもどうしようもない。それに日が変わっているのだから、もう神楽ちゃんは星海坊主さんと旅立ってしまっている可能性だってある。
本当に、これで良かったのか…。
答えが見つからないまま、私はご飯を食べ終えると二階へと向かった。新八くんは帰ってしまったのか、万事屋銀ちゃんの戸を開けると中は静まっていた。
『銀ちゃーん?』
名前を呼んでみたが、返事がない。(出掛けた?いやでも鍵は開いてたし)聞こえていないのだろうか、そう思いながら玄関に上がり応接間へと向かった。
「……これで良かったんだよな」
すると、先ほど私がずっと考えていた言葉、否、銀ちゃんの声が聞こえてきた。私は少し開いた襖から応接間を覗いた。そこには、銀ちゃんと定春の姿があり銀ちゃんが定春に話しかけていた。
「俺も親子ってのがどーいうもんなのかなんてよくわからねーが…」
そう言えば、銀ちゃんがどう育ってきたのかとか、両親は何をしているのかとか聞いた事がない。…それぞれに家族に対する思いはバラバラなのだろう、と私は初めて痛感した。
「……これで良かったのさ」
『…銀ちゃんなりの優しさなら良かったんじゃない?』
「…おまっ声くれー出して入れよ」
『出しましたー』
今度は、言い聞かせるような、そんな言葉を吐いた銀ちゃんに、私は後ろから優しく覆い被さった。銀ちゃんは一瞬肩を小さく上げたがすぐにいつものだるそうな声を出してそう言った。(誰と居る事が正しくて誰と居る事が間違いなんてない。…答えなんてないんだね)