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「まァ、そォ。それは大変だったわね」
私達は次に、お妙さんに会いに行く事にした。(お妙さんなら何かまともな意見出してくれそうだし)お妙さんは話を理解すると深刻そうな顔を浮かべた。
「私の事も忘れてしまったのかしら?」
「スミマセン」
「…私の事は覚えてるわよね?」
「いや今スミマセンって言ったじゃないですか」
「いや覚えてるわ、ふざけんじゃないわよ」
『お、お妙さん…?』
お妙さんは新八くんの方へと振り向くとズイ、と金槌を目の前に差し出した。
「私は覚えているのに一方的に忘れられるなんて胸くそが悪いわ。何様?新ちゃん、これで私を殴って銀サンの記憶だけ取り除いてちょうだい」
「姉上、僕エスパー?」
『お妙さん落ち着いて…』
「仕方ないわ。是が非でも思い出してもらうわ。同じショックを与えればきっと甦るわ」
そう言ってお妙さんは銀ちゃんに掴みかかる。先程そのショックで振り出しに戻ってしまったのに、また振り出しに戻ってしまう。それはご免だ、と私と神楽ちゃんは必死にそれを止める。その時、お妙さんの手を銀ちゃんは力強く止めた。
「すみません。今はまだ思い出せませんが、必ずあなたの事も思い出しますのでそれまで暫しご辛抱を」
「『!』」
なんだ、なんだこのキザなヤローは。やはり私の知っている銀ちゃんではない。だが、お妙さんはみるみるうちに顔を赤らめ掴まれた腕を振り払ってそっぽを向いた。
「嫌だわ。何。銀サン如きでドキドキするなんて。あんなのタダ目と眉がちょっと近付いただけじゃないの。黒目がちょっとデカくなっただけじゃないの」
『…オーイ、お妙さーん?』
私の呼ぶ声にお妙さんは一度咳払いをすると、此方へと向き直った。
「…もう過去の事はいいじゃない。後ろを振り返るより前を見て生きていきましょう」
「なにィ!急に変わったよ!何があったんですか!」
お妙さんは先程と打って変わった態度を取り始めた。
「あんな目と眉の離れた男のどこがいいのよ。あんなチャランポランな銀サンより今の銀サンの方が真面目そうだし…す…素敵じゃない」
「何ホホ染めてんですかァァ!!」
『惚れたな、こりゃ惚れたな』
「認めん!俺は認めんぞ!!あんな男の義弟になるなんて俺は絶対嫌です!」
『結局お金持ってない事には変わらないんだよ!アナタが苦労するんだよお妙さん!』
「話を飛躍させるんじゃありません」
「そーですよ!今は目と眉が近付いてますが記憶が戻ればまた離れますよ!また締まりのない顔になりますよ!」
「「「「『……』」」」」
突然、こたつの中から現れた近藤さんに私達は一瞬、固まった。だが、すぐにお妙さんはニッコリ笑って近藤さんの顔をグリグリ、いやメキメキ踏んだ。ストーカーはまだ続いているようだ。近藤さんは踏まれながらも、こたつからプルプルと震えた手で何やら土産のようなものを差し出してきた。
「あのコレ、お土産に買ってきたんで食べて下さい」
『まさかコレハーゲンダッツぅ!?』
「溶けてドロドロじゃないスか!アンタ、一体何時間こたつの中にいたの!?」
『(ていうか、こたつの中にいたんならお妙さんも流石に気付かないか…?)』