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銀ちゃんは先程差し出されたシールを手にとると言葉を続けた。
「コレ、流行りのドッキリマンシールじゃねーか?」
「そーだよ、レアモノだよ。何で知ってるの?」
「何でってオメー。俺も集めてんだ…」
そう言ってゆっくりと銀ちゃんが立ち上がるのを見ると私は口端を吊り上げた。
「コイツの為なら何でもやるぜ。後で返せっつってもおせーからな」
「兄ちゃん!」
銀ちゃんは子供にニッと笑って玄関へと向かう。
「ちょっ…旦那」
「銀ちゃん本気アルか」
そんな銀ちゃんに沖田さんや神楽ちゃんは驚いていた。私は口端を吊り上げたまま銀ちゃんを見ていた。
「酔狂な野郎だとは思っていたが」
「!」
「ここまでくるとバカだな」
すると、部屋の外には土方さんが立っていた。
「小物が一人歯向かったところで潰せる連中じゃねーと言ったはずだ…死ぬぜ」
「オイオイ、何だ。どいつもこいつも人ん家にズカズカ入りやがって。テメーらにゃ迷惑かけねーよ」
銀ちゃんは呆れながらもどけ、と土方さんに言い放ち玄関へと足を進める。
「別にテメーが死のうが構わんが、ただ解せねー。わざわざ死にに行くってのか?」
確かに、仇と言ってもわざわざ死にに行くのと一緒だ。だが、土方さんの問い掛けに銀ちゃんは笑った。
「行かなくても俺ァ死ぬんだよ。俺にはなァ、心臓より大事な器官があるんだよ。そいつァ見えねーが確かに俺のどタマから股間を真っ直ぐブチ抜いて俺の中に存在する。そいつがあるから俺ァ真っ直ぐ立っていられる。フラフラしても真っ直ぐ歩いていける。ここで立ち止まったらそいつが折れちまうのさ。魂が、折れちまうんだよ」
『……』
「心臓が止まるなんて事より俺にしたらそっちの方が一大事でね。こいつァ老いぼれて腰が曲がっても真っ直ぐじゃなきゃいけねー」
銀ちゃんは言葉を言い終えると、万事屋を後にした。
「己の美学の為に死ぬってか?とんだロマンティズムだ」
土方さんはそんな銀ちゃんに大きく溜め息をついた。それに続き、私も大きくため息をつくと、ゆっくりと立ち上がり、土方さんの前を通り過ぎる。
『格好つけたがるなー、銀ちゃんは』
「…オイ、何してんだ」
言葉を返した私を見て土方さんが問いかけた。私は子供達が広げた宝物からビー玉を手にとり、二人の前を通り抜けるとニッと笑った。
『小物二人ならまだマシかと』
「!なまえさんアンタまで…」
「オイ!死んだらどーすんだ!」
『間違いを正せるのなら、本望ですよ』
私の言葉に再び静まり返った万事屋を飛び出した。少し前には銀ちゃんがおり、私は追いかけるよりも先に声を張り上げた。
『なーに格好つけてんだか』
「!…オイオイ、何で来てんだよ」
『わかってたくせに』
「…今でも十分苦しーのに無理すんじゃねーよ」
銀ちゃんには私の気持ちなど簡単にわかっていたようだ。銀ちゃんの言った通り、本当の子のように育ててくれていた親が殺された子供達の気持ちが痛い程わかる。(片岡さんは病死だったけど)そしてこれ以上に関われば更に苦しくなる事もわかっている。(…だけど)
『…ビー玉、欲しかったし』
「…オメーもバカだな」
私は冗談っぽく先程手に取ったビー玉を銀ちゃんに見せて笑った。それを見た銀ちゃんは一瞬唖然としたが、私の気持ちを再び見通したのか小さく笑い返すとくしゃっと頭を撫でた。
(私が笑う姿を片岡さんに見せていれているように、道信さんにもあの子達の笑う姿を見せてあげたい)